厳しい市場で戦うメーカーに問題

　ビジネス機械・情報システム産業協会（JBMIA）がメーカーの異なるプリンタを相互接続できる標準規格「BMLinkS（ビーエムリンクス）」の仕様作成に向けた作業を開始して今年で10年が経った。

　複数台のプリンタを利用するユーザー企業では、メーカーを1社に固定せずそれぞれの最新機器を導入するニーズがある。これに応えるために、同協会の「BMLinkSプロジェクト委員会」ではメーカーが異なる環境でも利用できるように標準仕様を毎年策定し、このほど最終仕上げとなる「デバイス管理」の仕様を公開。だが、ユーザー企業に利便性をもたらすはずの標準仕様が一向に浸透しない。

　同委員会の加盟メーカーは、リコーやキヤノン、富士ゼロックス、セイコーエプソンなど、国内展開する主要16社。同委員会によれば、この10年間で「BM LinkS認証機器」と呼ぶプリンタやデジタル複合機（MFP）は、300機種以上に達して新製品の7割を占める。それでも、各メーカーの販売会社や2次店などから「BMLinkSを利用したソリューションを開始した」といった積極的に標準仕様を〝売り〟に結びつける話を耳にしない。実際、キヤノンの中岡正喜・委員長は「実績はまだなく、（BM LinkSが）どのように使われているか把握していない」と述べているほどだ。

　今年の5月下旬、同委員会は標準仕様の「デバイス管理標準仕様」と「セキュリティホワイトペーパー」を公開した。前者は、これまで不可能だった異なるメーカー機器間で、プリンタ管理者がオフィス機器の導入・移設時の設定変更や日常運用の機器監視、利用状況を把握できる仕様。後者は、SIerなどから聴取した意見を参考に、BMLinkS対応機器を導入する際に必要となるアクセス制御や通信経路暗号化などセキュリティへの取り組みを一覧にして提供した。

　これまでにもプリンタドライバやスキャナの標準仕様を公開してきたので、あとはメーカー側や販売会社の判断で、次々に公開される標準仕様をBM LinkS対応機器に搭載するだけだ。BMLinkSを利用してマルチベンダー環境で新たなオフィス環境を提案すれば、新規需要の創出に役立つはずだ。個人情報保護の徹底やコスト低減圧力が強まるなか、各プリンタ販売会社は限られた印刷ボリュームの市場で、販売台数を伸ばすことに四苦八苦。他社と自社機器が混在するユーザー企業に出向いた際には「当社のプリンタ群で揃えソフトウェアを利用すれば全体最適化が図れる」と、「一社丸抱え」を勧める傾向がある。

　そうしたしのぎを削る状況下で、ユーザー企業の利便性や導入ベンダーの手間を省くはずのBMLinkSは、悪化しつつある市場環境に埋没してしまっているのだ。それでも中小企業向けにプリンタを販売する独立系ベンダーは、多くが複数メーカーの機器を扱う。こうした独立系ベンダーからBMLinkSの販売利用が拡大するとみられる。とはいえ、ベンダーに機器を供給するメーカー側の引き締め次第では、元の木阿弥になるだろう。

　メーカー側の積極的なBMLinkSの利用が待たれている。