「ここで一段落」は早すぎる
情報処理推進機構(IPA)が2005年度から07年度までの3年間推進した「自治体等におけるオープンソースソフトウェア活用に向けての導入実証」が一段落した。
「これまでの3年間のように、多数の実証実験を一気に進行させることは、今年度以降は計画していない」と田代秀一・オープンソフトウェア・センター長はコメントする。つまり、自治体を“実験場”にしたオープンソースソフトウェア(OSS)の普及プロジェクトが一休みすることになるわけだ。
IPAは同プロジェクトで1年ごとに順序立ててOSSの適用範囲を広げてきた。1年目となる05年度はデスクトップ端末にOSSを適用。06年度はデスクトップとサーバーを組み合わせた基盤システムに拡充し、その構築・サポート手法の検証を進めた。最終年度となる07年度には、基幹業務システムに適用。システムの相互連携やレガシーシステムからの移行検証を行った。
07年度の導入実証実験プロジェクトの1つで、「OSSによる統合データベース(DB)を介した基幹システムと業務システム連携の実証」を手がけた新潟県上越市の今井晃男・総務部情報管理課管理係係長は、「情報システムの構築および運用のコスト削減策として今後OSSを検討することが可能になった」と説明。一方、システム構築を担当した新潟県に本社を置く中堅SIer、BSNアイネットの白柏雅資・公共システムソリューションマネジャーは、「SIビジネスを手がけているなかで、OSSを使うメリットが見出せない部分がこれまであった。それが、今回の事例でOSSを使ったSIのノウハウを身に付けることができた。この実績を横展開したい」と、ビジネスチャンスにつながると期待している。
このプロジェクトでは、福岡県と埼玉県鳩ヶ谷市の電子自治体共通技術標準や、川口市の自治体EA(エンタープライズアーキテクチャ)事業など、複数の自治体がOSSを使った先進的システムを稼働させてきた。一定の実績が出た取り組みであることは間違いない。
だが、田代センター長はまだ満足していない。「データの互換性と相互運用性に対する課題を痛感した。調達する側のOSSに対する理解不足もある」と、残された課題があることを示唆する。
OSSに対してはITベンダーから否定的な意見が聞かれる。ある大手SIerは、「OSSに関するユーザーニーズは、数年前に比べて薄れている。ベンダーにとっても売上増加に結びつきにくいため、OSSを使ったシステム提案のモチベーションは薄れている」と、OSS関連ビジネスがトーンダウンしている状況を明らかにする。
オープン技術の積極的採用は、国にとっての至上命題。ソフト産業推進の核団体であるIPAが、自治体と地元IT企業を組ませて進める実証実験は、課題の抽出だけでなく、OSSを認知させるという点でも効果がある。「今後も自治体でOSSを活用したシステム開発・運用実験は必要性があれば始める」(田代センター長)という。だが、OSS普及に向けてプロジェクトをこれまでと同様の内容とスピードで進めずに、現段階で一段落させてしまうのは、指針とのズレを感じる。