回線の付加価値サービスがカギ

国内でも存在感増す可能性も

　ワールドワイドで大手通信事業者に位置づけられる英BTグループは、アジアパシフィック地域のビジネスに本腰を入れている。回線だけではないITを含めたトータルサービスを武器に、企業のアジア進出を支援することで顧客の拡大を図る。日本でも、事業拡大に向けた体制を整えた。はたして、欧州で培ったノウハウは通用するのか。（佐相彰彦●取材／文）

■もはや通信事業者ではない　積極的なM＆Aでサービスを拡大

　BTグループがビジネスを展開している国は世界で170か国以上。そのうちアジア地域は17か国を占めている。これまでは、欧米地域が中心だったが、ここにきてアジアパシフィック地域にフォーカス。アレン・マー・BTアジアパシフィックプレジデントはその理由を「依然としてアジア地域に進出しようとする顧客が多いことと、アジア地域の成長が著しいため」と説明する。なかでも、中国をはじめ香港、台湾、シンガポールを含めた「大中華圏」やインドなどは最近になってブロードバンド環境が整いつつある状況だ。ICTマーケットが伸びているなか、大きなビジネスチャンスがつかめると捉えている。ただし、単に回線を提供するだけでは各国既存の大手通信事業者との差別化は困難だ。そのため、アジア地域の企業を顧客として獲得することは難しいと判断し、ITとネットワークサービスを網羅したトータルサービスの提供を武器としている。

　7月には香港で、各国の報道関係者向けに4年ぶりとなるアジア地域を中心とする戦略説明会を開催したほどの力の入れようだ。このカンファレンスで印象的だったのは、冒頭に登壇したマー・プレジデントが「BTグループは、もはや通信事業者ではない」とアピールしたことだった。

　確かに、BTグループは通信事業者でありながらもSIerやコンサルティング会社の機能を持っており、回線だけではない付加価値サービスをワールドワイドで提供するベンダーとして知名度が高まっている。しかも、アウトソーシングや、顧客ニーズに対応したアプリケーションサービスの提供も注目を集めている。「ITとネットワーク両方の切り口からサービスを提供することができる。IT分野では、IBMやヒューレット・パッカード、富士通、日立製作所などが競合となる。テレコム分野では、PCCW（香港テレコム）やNTTグループ、AT＆Tなどが競合だ。しかし、当社ほど両分野を網羅したベンダーは存在しない」と、マー・プレジデントは言い切る。

　こうしたビジネスモデルが構築できたのは、この3－4年で多くのM＆A（企業の合併・吸収）を急速に進めてきたからだ。M＆A件数は40にも上るという。M＆Aを担当する英BTグローバルサービスのデイビッド・ファーニス・バイスプレジデントは、「最近では、新規事業をゼロからこつこつと立ち上げるより、（M＆Aで）一気に軌道に乗せるほうが効率的で、結果的にビジネス拡大にもつながる。アジアは未開拓の地域が多く、M＆Aに適している地域だ。有機的な成長を見込んで次々とM＆Aをしかけていく」方針を示す。

■SIerとの協業強化を追求　日本は体制整備で拡大

　M＆Aに加えて、BTグループが力を入れているのは各地域のSIerとの協業強化だ。大中華圏では、「流通の確立やユーザー企業に対して新しいソリューションを提案するうえで、パートナー企業は不可欠」（北東アジア担当のビル・ラム・バイスプレジデント）としている。日本も、「（古くから参入を果たしているものの）生半可な姿勢でビジネス拡大を図れる地域ではない。SIerとのパートナーシップを図らなければならない重要な地域でもある」（マー・プレジデント）とみている。

　SIerにとっては、他の通信事業者と比べてITシステムを把握したネットワークサービスを提供すると考えれば、BTとのパートナーシップはメリットになる可能性がある。企業のグローバル化を支援するノウハウを持っており、月額課金のアプリケーションサービスを構築している点では、SIerが自社開発したアプリケーションをグローバル化することにもつながる。

　KDDIとユニアデックスが戦略的な提携を結んだように、最近では通信事業者との距離を縮めてITと通信の融合ビジネスに着手するモデルが出始めている。ビジネス拡大を図る点では、特定の通信事業者に絞ってビジネスを手がけることも1つの手といえそうだ。通信回線を含めた事業で競合他社との差別化を図るのであれば、BTとのアライアンス強化も考えられなくはない。BTジャパンは、日本人でIT畑出身の長谷川恵氏を社長に据え体制強化を進めている。「業界に特化したSIerとのアライアンスを組んでいきたい」（長谷川社長）考えであることから、BTグループにとっても日本のビジネス拡大にはSIerとのパートナーシップ深耕がカギを握る。