プリンタ会社のOKIデータ(杉本晴重・社長CEO)は、英国スコットランドにあるアセンブリ(仕向け先の仕様変更)拠点で大幅なCO2削減に成功した。工場稼働に必要な電気・空調の燃料を重油からガスに変更するなどして、CO2排出量を年間1400トン減らした。最近では、同社の欧州子会社、OKIデータUK(OUK)域内で出るプリンタ用のトナー残をリサイクル/リユースする仕組みをつくることにも挑戦するなど、環境活動を広げている。環境対策先進地域の欧州で事業展開する日本メーカーは同じような環境対策が求められる。同社の活動は先進事例として参考にできる。(谷畑良胤・特派員)
→前編から読む環境対策=コスト削減策として有効
■10円、20円のコスト削減に必死 
OKIデータのアセンブリ拠点は1987年に設立され、翌年から欧州向けドットインパクトプリンタの量産やLED(発光ダイオード)プリンタの生産工場として稼働してきた。当時の英国は、国内産業保護策として「アンチ・ダンピング」措置を実施中。「これを回避するために、EU域内で部品を最低40%調達する必要があり、基本的にEU域内向けだけに生産・販売していた状況」(OUKの袋畑芳久・副社長)という。数年前の中国などと同じく「自国生産・自国販売」の制約のため、「生産拠点」をスコットランドに建設した経緯があるのだ。
ところが、2000年に「アンチ・ダンピング」措置が解除された。これにより、同社の量産・生産工場は、賃金コストが安く部材が安価で調達できる中国やタイへと移行。スコットランドの拠点は、EU域内の顧客向けに部材を組み立てアセンブリを行う工場へと変貌した。袋畑・副社長は「製品マニュアルだけで14-15言語あり、電源コンセントの形状や電圧も多様。EU域内の仕様は製品によっては100種類以上に達し、そのなかで10円、20円水準のコスト削減を争っている」と実情を語る。アセンブリ・コストを本体に価格転嫁する割合を抑えるため、拠点内でさまざまな努力をしているそうだ。
こうしたなかで、05年11月に生産工場内の旧社屋からアセンブリ拠点に変更を加え、シミュレーション技術により最適温度管理設計した「環境配慮型社屋」が完成する。新社屋に移ってからは、地道に環境対策を施す一方で、電気・光熱費を年間6800万円削減することにも成功した。
環境対策としてこれまでには、重油とガスを併用していた空調システムの燃料をすべてガスで賄う方式に変更したほか、ビルの庇(ひさし)を自動制御して自然光を最大限活用した温度調整や、人のいる場所だけで稼働する照明と空調、降雨量の多い環境を生かし敷地内に溜池をつくりトイレに利用する──など、努力を積み重ねてきた。水については、OUK主製造品であるトナーカートリッジを「真空成型方式」から「インジェクション成型方式」でつくれるように変更し、前者方式の大量の水使用を抑えることにも成功した。「以前に比べ年間で79%削減できた」と、同拠点で環境対策を企画するアルマンド・ワトソン・消耗品事業部マネージャーは胸を張る。
■タイでも福島でもCO2削減実施 
OUKでは、EU域内の顧客が使用したトナーカートリッジを無償回収して、残ったトナーパウダーやカートリッジなどのリサイクルを開始。「パウダーは道路の表面温度を下げる効果がある」(ワトソン・マネージャー)ため、英国最大の道路建設会社と連携してアスファルト表面に利用することを開始した。「これまで、ゴミとなっていたサプライ品は埋め立てしていた。これをリサイクル・パートナーと共同でリサイクルしている。この先、カートリッジなどをリユースする仕組みも整備する」と話す。
OKIデータは、OUKの取り組みなどを参考に、タイのプリンタ工場でCO2を吸収する「カーボンオフセット」として植林活動を実施したほか、日本の福島事業所でプリンタ生産物流のCO2排出量を72%削減するなど、世界のサプライチェーンで環境対策を推進している。
OUKの袋畑・副社長は「環境対策の活動は、社会貢献であると同時に、全体のコスト削減にも役立つ」と言い切っている。 環境対策が生産プロセスの改革や製品原価を抑える努力と同一歩調であるとして、今後もCO2削減などを継続する方針だ。(おわり)