基盤開発は富士通、参加ISVは18社
年度末稼働に向け開発スタート 経済産業省のSaaS基盤がいよいよ開発段階に入る。9月4日、経産省はSaaSプラットフォームの開発企業を富士通に決め、この基盤上で動作するアプリの開発会社を18社採択した。今秋から開発をスタートさせ、2009年早々にテストを実施。今年度(09年3月期)末までにサービス開始する計画だ。国が自ら主導する異例の大規模プロジェクトが第二段階に突入する。(木村剛士●取材/文)
■50万社の利用に向けて 幹事会社、開発会社、ISV揃う 経産省が推進するSaaS基盤事業の狙いは、従業員20人以下の零細・中小企業のIT化促進。同省は、以前から中小企業の財務会計・給与計算などの基幹業務アプリの活用が一向に進まないことを重要課題に挙げていた。打開策として、低コストですぐに利用できるSaaS型サービスに着眼したというわけだ。目標は「2010年度までに50万社の利用」とかなり挑戦的。この目標設定からも、同省が中小企業のIT化の遅れを問題視している状況が読み取れる。
その深刻さも相まってか、このプロジェクトは同省自らが開発・運用の陣頭指揮を取る。国がシステム開発や運用を主導するのは極めて異例なことで、特定の業種・業界向けにシステムを開発・運用を企画したことは過去にあるものの、「今回のようなケースはないのではないか」と安田篤・情報処理振興課課長補佐は話す。異例なだけでなく、複数の大手ITベンダーが同様のSaaS基盤を開発し、ビジネスに結び付けようとしているため、「民業を圧迫するのではないか」とIT業界内では批判もある。それに対して同省関係者は「中小企業のIT化の遅れは他国に比べてかなり深刻。(中小企業のIT化を)民間企業ができないなら、国でやるしかないと判断した」と説明する。官が主導することにためらいはない。
今年度から徐々に準備を進めていたプロジェクトで、全体をコーディネートする幹事会社の選定や、アプリ開発会社への事業趣旨の説明などを地道に続けてきた。この9月からは新展開がスタート。4日、同省はSaaS基盤を開発する企業と、同基盤上で動作するアプリの開発企業18社を公表した。基盤開発は応募があった2社のうち富士通に決め、アプリ会社は応募20社のうち18社を採択している(図参照)。
これで、同プロジェクトを推進するために重要になる三つの柱、(1)幹事会社(新社会システム総合研究所)(2)SaaS基盤開発企業(富士通)(3)アプリ開発会社(図の18社)が立ち、開発に向けての準備が整った。三本柱を立てる作業が第1フェーズで、開発は第二段階。大規模プロジェクトが新たなステージに突入したことになる。

■年度内にサービス開始 「どう売るか」が次の焦点に スケジュールは、この秋に開発に取り掛かり、年内にはSaaS基盤とアプリの接続テスト、年始早々に運用試験、今年度内にはサービスを始める計画だ。今年度予算は、基盤開発、アプリ開発会社に支払う移行費用(1社あたり2000万円ないし5000万円)など、すべて含めて18億円。来年度は20億円を要求するつもりだ。
安田課長補佐は、「アプリ開発会社を15社ぐらい集めたいと考えていただけに18社揃えられたことは大きい。顔ぶれも『財務会計』『給与計算』ソフトが複数用意できた」と順調な滑り出しに手ごたえを感じている。また、採択を受けたアプリ開発会社の1社、ビジネスオンラインの藤井博之代表取締役は、「商工会議所やITコーディネータなどの関係団体と協力して中小企業に広くITを普及させることはユーザー企業にとっても、IT業界にとっても非常に有意義。当社のサービスもまだ一部の企業にしか知られていない。これを機に中小企業への営業展開を強化したい」と意欲を示している。
計画通り開発フェーズに入れたことで、今後の焦点は「どう認知させて使ってもらうか」(安田課長補佐)という段階に移る。同省はすでに全国の商工会や商工会議所に加え、全国15の税理士会で構成する日本税理士会連合会と接触。同基盤で動作するアプリをユーザー企業に向けて提案してもらう体制を築こうと動き始めている。「従業員20人以下企業のうち約7割は紙ベースで財務会計業務を手がけている。担当する税理士にとっても、自分の負担を軽くする意味でSaaS型サービスはメリットがあるはず。税理士団体との連携はカギになる」と安田課長補佐は説明。税理士の協力が欠かせないという。
いよいよ開発段階に入ったSaaS基盤事業。安田課長補佐の言うとおり、賛否両論ありながらもアプリ開発会社を18社揃えられた意味は大きい。順調に進んでいるといっていいだろう。今後は、滞りなくスケジュール通りに開発を進めることも大切だが、それと並行する「どう売るか」という仕組みをどこまで整備できるかもカギだ。「売る仕組みづくり」という第3フェーズにも大きなヤマが待っていそうだ。
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| 民間の雄、NTTもSaaS本格化 | 経産省がSaaS基盤の開発企業とアプリ開発会社を公表した9月4日。その2日前にもSaaS関連で大きなニュースがあった。NTTが、グループ会社のNTTコミュニケーションズおよびNTTデータとともに、3社共同のプレスリリースを発表したのだ。タイトルは、「SaaS事業者向けサービス基盤の共同開発について」。 SaaS型サービスを提供したいITベンダー向けにSaaS基盤を提供するサービスを3社で共同展開するため、その基盤となるシステム作りを始めるというのだ。いわば、NTTがグループの力を結集させて、SaaS事業を本格化するという宣言のようなもの。 |  | いよいよ、NTTも本腰を入れてSaaS事業を動かし始める。 民間企業では、すでに富士通やNECなどのコンピュータメーカーや大手SIer、ISVなど複数のITベンダーがSaaS基盤を独自開発し、基盤の貸し出しサービスをビジネスに結び付けようと躍起だ。そのため、SaaS基盤が乱立している状態にあるとすらいえる。現在のところ、基盤は各社ともに開発中または開発終了したばかりで、今後はユーザー企業の獲得合戦が始まる。どのプラットフォームがいち早く、アプリを揃えユーザー企業を獲得するか。主導権争いにも注目が集まる。 | | | |