富士通(野副州旦社長)は、独シーメンスとの折半出資会社である富士通シーメンス・コンピューターズ(FSC)の全株式を取得することでシーメンスと合意した。シーメンス保有株式を約4億5000万ユーロ(約562億5000万円)で取得、2009年4月1日に完全子会社化する。野副社長は「グローバル化に向けた大きな一歩」と語り、海外事業加速に向けた体制強化に自信を示すが、現在進める中期経営計画の達成にはマイナス要素になる可能性もある。(木村剛士●取材/文)
諸刃の剣か
富士通は現在3か年の中期経営計画(2007年度-09年度)を進めている最中で、最終年度には「営業利益率5%確保」と「海外売上比率40%以上」の達成を目標に掲げる。サーバーやPCなどのハード販売は利益率が低く、国内マーケットは年率1-2%しか成長が見込めない。それだけに、利益貢献度が大きいソフトサービスを強化しながら、売り上げ成長率の高い海外市場に積極進出することを強く押し出した印象がある。掲げた目標がそれを見込んでいるように感じ取れるのだ。
■プラスだけでない子会社化
今回のFSC完全子会社化は、この中計の目標に大きく関わるもの。ただし、それは決してプラス要素だけではない。貢献する点もあるが、その一方で足を引っ張る面もあることに注目したい。
プラス面は、FSCは持分法適用会社から連結子会社になることで海外の売上比率が高まることだ。FSCの昨年度売上高は66億1400万ユーロ(約8267億5000万円)。富士通の中計直前06年度の海外売上高比率は35.8%で、翌07年度はほぼ変わらず36.1%。今年度中間期では、円高の影響で32.7%と落ち込んだ。それだけに、FSCの売り上げが海外比率アップに貢献するのは心強いだろう。
それだけではない。野副社長は「IAサーバーの開発拠点をFSCに一本化する」つもりだ。富士通本体との業務重複解消による効率化も期待できる。欧州地域の戦略会社であるFSCの舵取りを、富士通単独で担うことができるようになったのも力になるだろう。
では、その一方に潜むマイナス要素とは何か。それは利益率が低下することだ。FSCは売り上げこそ1兆円弱の力を持つが、昨年度の利益率は1%ほどしかない。その原因は、FSCの売り上げのなかで大きな割合を占めているハード販売。サーバーとPC(法人と個人向け)の販売額で、実に全体の71%も占める(図参照)。利幅が狭いハード事業にこれだけ依存していれば、この低利益率もやむを得ないだろう。
富士通の昨年度営業利益率は3.8%。中間期では円高の影響などでさらに悪化し、1.5%まで落ち込んだ(通期見通しは2.9%)。FSCが連結対象外でも未達は必至の状況だったが、利益率1%の企業が子会社になれば、ますます達成は遠のくことになる。
■利益重視体制を強調
野副社長は発表会見の際、「FSCの経営では売り上げ拡大よりも、利益率の改善が最優先課題。完全子会社化するのは来年4月1日だが、今年度下期中にも利益率改善のために何が必要か当然検討する」と説明。ハードで主力製品に位置付けるIAサーバーについても「台数(シェア)を追うよりも、収益をKPI(指標)にしてPDCAを回す」と利益重視の体制を強調している。ただ、リストラについては「シーメンスとは友好的に話がまとまっている。ということは、(リストラは)ないということ」と否定した。
FSCの今後は、富士通の中計達成の行方だけでなく、ハードビジネスの行く末を見極める試金石になるのかもしれない。
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| 矛先はコンシューマPCか 野副社長とともに記者の質問に答えた富田達夫副社長は、会見で意味深な発言をした。「利益率を勘案してプロダクト構成を考える」。今後、利益率の改善が見られない製品については撤退・縮小の可能性があるとも取れる言葉だ。 早急に手を打つと思われるのが個人向けPCだ。欧州のコンシューマPC市場は、低価格機が日本以上に席巻し、価格競争が熾烈。FSCはそれに巻き込まれ、富士通の上期PC事業も大きく落ち込んだ。テコ入れとして最初に動く分野は、コンシューマPCの可能性が高い。 一部報道では、FSCが持つ個人向けPC事業をレノボに売却するとの話が出ている。だが、野副社長はこれに対しては「レノボが関心を持っているという噂話を耳にしたことはある。ただ、買収話を持ちかけられたことはない」と完全否定した。 |