IT業界の“ユニクロ”
仮想化ソフトウェアベンダーが、売り上げの増大に手応えを感じている。設備投資の減退で、多くのITベンダーが4月以降のビジネスの見通しが立ちにくい状況にあるにもかかわらず、仮想化関連の需要は堅調に推移。逆風どころか“追い風”が吹く状況だ。大幅なコスト削減を余儀なくされているユーザー企業が仮想化に走っていることが売り上げ増を後押しする。仮想化ソフトベンダーにとって、今回の不況は大きなビジネスチャンス。不況下でひとり勝ちする“IT業界のユニクロ”ともいえる現象は、当面衰えそうにない。
仮想化ソフト専業で業績を急拡大させてきたヴイエムウェアの三木泰雄社長は、「2009年もこれまでと同様の高い成長を見込む」と、経済危機に直面してなお、売り上げの増大に自信を示す。国内の売上高は非公開だが、グローバル全体の昨年度(08年1~12月期)は前年度比で約42%成長している。シトリックス・システムズ・ジャパンの山中理惠・マーケティング本部長は「伸びる要素はたくさんある」と強気。シトリックスもグローバルでは2ケタベースで成長しており、国内ビジネスで成長が鈍るとは考えていない様子だ。
裏づけとなるのが、ユーザー企業がいっせいにITコストの削減に向けた取り組みを始めたことである。ITのTCO(総保有コスト)全体で多くを占めるのが運用にかかる費用。国内企業では運用コストがTCO全体の6~7割を占めるといわれ、海外企業に比べて高止まりしている。仮想化はこの割高な運用コストの削減に直結する商材というわけだ。有力SIerは、こぞって仮想化を前面に出したビジネスを推進。仮想化ソフトベンダーはこれを機にマーケットやシェアの拡大策を積極化している。
仮想化ソフト市場を巡っては、仮想化ブームの火をつけたヴイエムウェアがリードし、これをシトリックスとマイクロソフトが猛追。シトリックスとマイクロソフトは従来から続く協力関係を維持する。ヴイエムウェアは、これまでに国内約400社のパートナー網を構築。シトリックスは約250社で、これにマイクロソフトとの連携効果が加わる。
ヴイエムウェアはサーバー領域で地歩をさらに強固にし、クライアント領域でのシェア拡大を重点施策に掲げる。対するシトリックスはクライアント周りの技術に強みを持ち、アプリケーションソフトやデスクトップの仮想化で人気が高い。サーバー領域においても「機能的にライバルとなんら遜色ない」(山中本部長)と、攻略に自信を示す。マイクロソフトは(非仮想化の)クライアントとサーバーのOS分野で高いシェアを保有していることから、中小企業などすそ野の広い市場を狙えそうだ。
戦いの場は、クライアント/サーバーの領域にとどまらない。事業継続のための「ディザスタリカバリ(DR)」にかかるコストの削減やアプライアンス製品の仮想化、医療など特定業種向けの仮想化商材の開発など多岐にわたる。例えば、アプライアンスは特定用途のソフトを専用ハードウェアに組み込んで販売する商材だ。これを従来の“専用ハード”ではなく“仮想マシン”に組み込む。セットアップする手間を省くアプライアンスの特性を生かしつつ、ハードへの投資を省ける利点があり、この先に「需要が拡大する可能性」(三木社長)がある。
仮想化はインフラや運用にかかるコストを削減でき、ユーザー企業は喜ぶ。しかし、これだけではSIerにとって十分な収益につながるとは言い難い。業種・業務や、特定のアプリケーションを仮想化する具体的なサービスメニューを設けたりするなど、「より細かく突き詰めていく」(山中本部長)ことがビジネス拡大に欠かせない。SIerは中長期にわたって安定した需要を引き出せる仮想化商材メニューを増やすなど、アイデアを生かした商品開発が求められている。(安藤章司)
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仮想化とサービス化は表裏一体
仮想化技術は、コンピュータのアーキテクチャが「所有から利用へ」大きく変わるうえでの1要素にすぎない。サーバーやクライアントが仮想化環境へ集約されることで、運用管理にかかるコストが大幅に削減できる。これがさらに進むと、統合されたシステムをデータセンター(DC)へアウトソーシングする動きに勢いが増す。ユーザーが個々に管理するより安全であり、二重化やディザスタリカバリ(DR)への対応もしやすいからだ。これは、DCを軸にITリソースをサービスとして利用するSaaSやクラウドに通じる。
情報セキュリティの観点からも仮想化は有用だ。社員のパソコンに散在する重要情報の漏えいは跡を絶たない。パソコンの画面やアプリケーションを遠隔地から参照できる技術に長けるシトリックスは、データをローカル環境にダウンロードするのではなく、「オンラインで参照し、編集・加工したあとは元あったサーバー側に保存する」(シトリックスの山中理惠本部長)ことで情報を保護。サーバーへの負担は、仮想化や負荷分散装置で軽減できる。社用ノートパソコンを持ち出し禁止にすれば生産性が落ちる。アーキテクチャを変えることでセキュリティを損なわずに利便性を保てる。
仮想化の推進によって、サーバーなどハードウェアが売れにくくなる恐れがある。ハード販売を重視するSIerのなかには一部に仮想化に消極的な傾向もみられたが、経済情勢が厳しさを増すなか「悠長なことは言っていられない」(SIer幹部)のが正直なところ。それどころか、アイデア次第では大きな受注に結びつく可能性もある。ヴイエムウェアの三木泰雄社長は、「SI案件を見ると当社仮想化ソフトのライセンス価格の平均して10倍ほどのビジネス規模になる」とみる。ハード押し売りで失注するより、仮想化で受注し、アウトソーシングに結びつけたほうが得策。不況に逆手にとったビジネスが伸びる構図だ。(安藤章司)