「1兆円超え」は幻に

連結売上高1兆200億円が8400億円にダウン――。キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ、村瀬治男社長)は、3か年経営計画を大幅に下方修正した。世界同時不況の影響を見据えて期首に2009年度(09年12月期)の業績を減収減益と厳しく予想したのだ。不況前は2010年度に年商1兆円超えを目指していたが、実現困難と判断。それでも、11年度には過去最高だった「2007年度の水準に回復させる」(村瀬社長)ことを念頭に置くとし、体裁を整えた形だ。ほぼ全セグメント総崩れのなか、ITソリューションを「最大の成長事業」と位置づけた戦略を描く。
08年度第4四半期(08年10~12月期)の業績は、すべての事業セグメントで総崩れの状態に陥った。複合機などドキュメントビジネスとITソリューション(ITS)を合計したビジネスソリューションセグメントの連結売上高は前年同期比15%減、コンシューマ機器は同12%減、半導体製造装置など産業機器に至っては企業の設備投資の抑制で同57%減に落ち込んだ。通期(08年1~12月期)でも、後半の不調が足を引っ張り、連結売上高全体で前年度比9%減の8275億円にとどまった。
複合機などのビジネス機器販売は、激しい価格競争にさらされており、デジカメなどコンシューマ機器も、雇用不安の増加などで消費マインドがさらに冷え込む恐れがある。こうしたなかにあってもITSは「最大の成長事業」(村瀬社長)と強気だ。ここ数年、有力SIerを相次いで買収。09年1月にはITS事業の中核会社であるキヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)とキヤノンネットワークコミュニケーションズを合併させるなどのグループ再編を加速させる。
今回の3か年経営計画では、2009年度が底で、10年、11年と回復。売り上げ・利益ともに過去最高だった2007年度の水準(売上高9051億円、営業利益369億円)に戻す。1年前までは10年に1兆200億円の年商を目指していたが、今回の経営計画では8400億円に後戻りする。今年3月に社長に昇格する川崎正己専務は「ITSはがっくり落ちることはない」とみている。しかし国内SI市場は先行きが不透明で“失速しない”という保証はない。同業の大手SIerも今年に入り、相次いで業績の下方修正を発表。キヤノンMJグループは、ITS事業を今の2倍近くの年商3000億円規模に拡大させる「ITS3000計画」を掲げており、08年夏頃に具体的なロードマップを明らかにする予定だった。ところが、世界経済の急激な悪化で一転して発表を見送った経緯がある。
キヤノンMJグループでは、受注・物流や保守サービスを効率化する新しい情報システムを今年相次いで導入する。総投資額は約100億円。効果は約200億円を見込む大規模なものだ。「利益ある成長」(川崎専務)に戻す体制づくりを急ぐというが、その道は険しい。(安藤章司)