単機能はエコとコスト削減で打開

　浮上の兆しが見えず、漸減状況が続く国内プリンタ市場。国内プリンタメーカーはこの状況を受け、中・大型案件で「ソリューション販売」、中・小案件で「環境（エコ）」「コスト削減」などを打ち出し、需要低迷に歯止めをかけようとしている。収益率が低い、従来型の“箱売り”販売に見切りをつけ、早期に高収益体質へ改善すべく、準備を急ぐ傾向が2009年に入って顕著になっている。

　コピーメーカーのリコーはこのほど、2010年度（2011年3月期）までの「第16次中期経営計画（中計）」を発表した。近藤史朗社長はこの中で、プリンタ関連の売上高に占める「ノンハード」の分野が「現在の10～15％から2倍の20～30％になる」と、本紙記者の質問にこう答え、ネットワークやワークフロー、セキュリティ、環境などを俯瞰した既存事業をベースにした「ソリューション販売」が安定的に収益性を高めるカギを握ると指摘した。

　リコーと競合する富士ゼロックスは、昨年度（09年3月期）当初に「アライアンスプログラムオフィス」というSIerとの協業を強化する部署を新設した。山本忠人社長は「当社は基幹システムを扱うSIerとともにソリューションカンパニーになる」と明言。基幹システムとデジタル複合機（MFP）などを連携した「ソリューション販売」に舵を切る戦略の一環として、パートナー連携を本格的に展開中だ。また、キヤノンマーケティングジャパン（キヤノンMJ）も、11年度（11年12月期）までの中計で「地域重点顧客の開拓」を推進するために、ソリューション展開できるパートナーとの関係強化策を示している。

　プリンタ販売台数の低迷を受け、プリンタ機器を広範にばら蒔いてトナーや用紙など消耗品で収益を得る、いわゆる“箱売り”ビジネスは限界にきていると各社は判断。中・大型案件を獲得して機器全体と業務フロー、帳票の大量印刷・配送などをアウトソーシングすることで「ストック収入」を得る戦略へと急速にシフトしている。このため、各社は従来の事務機ディーラーに加え、全国のユーザー企業の基幹システムを預かる有力SIerとのアライアンス強化が欠かせなくなっている。

　上記3社にセイコーエプソンを加えた上位4社の今年度（09年3月期、キヤノンMJは08年12月期・通期）第3四半期業績を見ると、プリンタ販売に関係する事業セグメントで前年同期に比べ10％前後の減少に見舞われた。しかし、世界展開する4社は、円高による為替差損の影響を受けているため、販売台数的には前年同期に比べ微減にとどまっていると判断できる。全体としてはモノクロ機の落ち込みが激しい。その一方、キヤノンMJが「A3カラー機」にフォーカスし、NECが「モノクロときどきカラー」と称した戦略を行って販売台数の増加に結びつけるなど、カラー機販売を重点化したメーカーが目立つ。これにカラーの消耗品販売伸長が加わり、プリンタ業界全体としては国内で善戦したと見るべきだろう。

　一方、コピーメーカー3社を含めた国内プリンタメーカーは、苦戦するページプリンタ（シングル機）販売を打開するため、09年に「環境（エコ）」「コスト削減」に加え、MFPやレーザーとインクジェットのシングル機などを用いて「最適配置」する提案をユーザー企業に展開することで需要を喚起する作戦をとる。

　国内で「グリーンIT」に関する意識が高まり、そのなかで消費電力やCO2排出、用紙を大量印刷するプリンタの「環境対策」は早急に解決すべき課題となっている。

　各メーカーはここに着目。エプソン販売は「レーザープリンタなど電子写真方式に比べ環境性能に優れたビジネスインクジェットプリンタを複合提案する」（宮西徳郎・プロダクトマーケティング部長）と、レーザーに比べ3年間で75％のCO2削減できるインクジェット販売を強化。同領域で競合する日本ヒューレット・パッカード（日本HP）は「今年はビジネスインクジェットにフォーカスし、コスト削減を含めユーザー企業にアピールする」（挽野元・執行役員）と、コスト削減や環境配慮を前面に打ち出す方針だ（関連記事18面）。

　今年は、環境対策や運用段階を含めたコスト削減が可能な機器を各社が相次ぎ投入する計画が目白押しだ。不況のあおりを受けて「民需」が低迷する反面、「官需」に特需が生まれる機運があるほか、小売業などSOHO市場で高速・省スペースのプリンタが売れ始めている。（谷畑良胤）

【関連記事】競争激化のプリンタ業界
SIer獲得が明暗を分ける

　国内プリンタメーカーでは2008年中、キヤノンマーケティングジャパンやNEC、富士ゼロックスなどでページプリンタの「カラー機シフト」の販売体制を敷いたメーカーが目立った。企業がコスト削減策の一環でカラー出力を減らすなか、モノクロ機が伸びると予測されていたが、蓋を開けてみるとカラー機の需要が増し、全体を底上げした。逆に、エプソン販売のようにカラー機の低迷をモノクロ機が下支えした例もある。

　単純に「モノクロ機がダメ」で「カラー機が良い」とは判断しにくい昨今のプリンタ市場。景気低迷を受け、コスト削減策を強いられているユーザー企業では、モノクロ、カラーを問わず「全体最適配置」を望み、これに付加して「コスト削減」を打ち出すなどの提案を受け入れる。
　従来のように、部門別にプリンタが導入されるケースは減りつつある。また、プリンタ自体が高耐久性を備え、以前のようにリース切れを機会とする「リプレース需要」が期待できなくなった。

　このため、ページプリンタ領域では、用途や環境、コスト削減提案などで販売台数を稼ぎ、一方で「ソリューション販売」を展開し、売上伸長より利益率を追求する姿勢が鮮明になったといえる。こうした方向へのシフトが09年に本格化する。

　プリンタメーカーは中堅・中小企業（SMB）向けの販売で事務機ディーラーを販社に抱える。これに加え、SMB向けには環境やコスト削減提案をする必要が高まり、一種の「ソリューション販売」ができる販社としてSIerなどを囲い込むことの重要性が高まってきた。
　逆に、リコーの近藤史朗社長が「直売（直販）傾向が強まる」と言うように、中・大型案件はグループ販社から直接販売する割合が高まると見られる。しかし、基幹システム構築のノウハウを持つSIerとの連携は必須。今後、各領域に適したSIerを獲得することが成長の明暗を分けることになる。（谷畑良胤）