DCとの協業強化でSMB開拓も
AT&Tジャパンは、ネットワーク(NW)の“オンデマンド化”を広めることに力を注いでいる。データセンター(DC)と協業してネットワークのホスティングサービスを強化するとともに、SMB(中堅・中小企業)の開拓も視野に入れている。ワールドワイドに回線を構築しているという「グローバル・ネットワーク」を武器として、これまで外資系企業の日本法人を対象にユーザー企業を増やしてきた同社。今回の戦略には、地に足をつけたビジネスを展開することにより、国内市場の主導権を掌握する狙いがある。
「ユーザー企業はグローバル・ガバナンスを求めている」。そう訴えるのは、2009年3月1日付でAT&Tジャパンの社長に就任した岩澤利典氏。「ユーザー企業の課題を解決するためには、ネットワークがグローバル化していなければ意味がない」と続ける。
「グローバル・ネットワーク」とは、世界各国でユーザー企業が同じネットワークを使えるというもの。世界で同じ回線サービスを使えば、ユーザー企業は国を越えてWAN(ワイド・エリア・ネットワーク)を構築することができる。IPネットワークを通じて、「いつでも」「どこでも」自社で活用しているアプリケーションを利用できるようになる。AT&Tは、このグローバル・ネットワークを他社との差別化策として、外資系企業を中心に顧客を獲得してきた。「日本企業のグローバル化が進むとともに、グローバル・ネットワークを利用することが重要となる」。そこで、「経営の効率化」「コスト競争力による生産性の向上」などといった切り口で、日本企業を新規ユーザーとして開拓することに踏み切ったのだ。
国内で新規顧客を獲得するため、「製品・サービスを拡充していく」という。具体的には、テレプレゼンス「AT&T Managed Telepresence」、ユニファイド・コミュニケーションとして「AT&T Connect」などの回線とアプリケーションを組み合わせたサービスを提供する。特筆すべきは、「テレプレゼンスなどIP-PBX分野では、国内企業と戦略的に提携していく」としていることだ。すでに、NECや富士通、日立製作所、OKIなど主要PBXメーカーと交渉を進めているという。
こうした製品・サービスの拡充に加え、同社が強化していくのは、ホスティング・サービスだ。シンガポールにある自社のDCを活用するほか、国内企業が所有するDCを活用して、回線サービスを提供することも視野に入れている。これは、「ITメーカーやSIerなどが、SaaSやPaaSなどのビジネスに着手しようとDCを強化している」ため。「グローバル・ガバナンスを進める大企業は、取引先であるSMBのガバナンスも意識している。こうしたニーズを捉えて、SMBを開拓していきたい」考えだ。
同社は、今回の戦略で日本企業を中心に顧客として獲得することを明確に掲げたことになる。これは、NTTやKDDIなど国内通信事業者との競争を本格化させることの現れといえよう。「新規顧客を増やしていくためには、ITベンダーとの協業強化を図っていかなければならない」と認識している。新社長に就任した岩澤氏は、同社でITベンダーとの協業強化を進めてきた人物だ。加えて、同社は今年に入ってからネットワーク・インテグレーション事業の拡大に向けてパートナー企業を獲得するための専門組織を設置している。はたして、AT&TジャパンがITベンダーとの協業強化で日本市場で主導権を握るほどの存在になりえるのか。今後のビジネスに注目が集まる。(佐相彰彦)