脱・旧来商流/再編/新領域がポイント
多くの企業で2009年度がスタートした。情報システムの“所有”から“利用”への流れは、不況に突き動かされる形で加速度的に拡大。「不況下にあっては、従前と同じことをやっていては通用しなくなる」(大手SIer幹部)と危機感を強めるITベンダーは、事業の選択と集中、商流の改革を推し進める。こうしたなか、「旧来の商流に縛られない」「再編の流れに逆らわない」「新しい領域へ果敢に進出する強いリーダーシップ」の3点が、不況下で伸びるポイントとして浮き彫りになってきた。
旧来の商流に縛られない
日本IBMの有力ビジネスパートナーのJBグループは、新年度から大規模なグループ再編を実施する。ここ数年、積極的な組織改革を行ってきた同グループは、主要事業会社を大きく大企業向けと中堅・中小企業向けに分け、さらに顧客の事業規模を問わず横断的にITサービスを提供するサービス専門会社に再編した。顧客規模ごとに違うニーズに対応するためと、ビジネスモデルが異なるSIとサービス分野を明確に区分けすることによりビジネス基盤を強化し、競争力を高める狙いだ。
JBグループはレノボやリコーなど複数メーカーの商材を積極的に扱っている。IBMのパソコンやプリンタの事業売却などによる品揃えの不足に対応するものだが、マルチベンダー化は、顧客ニーズを掴み、同グループの柱の一つである付加価値ディストリビューション事業の売り上げ増加という形でプラスに動く。
再編の流れに逆らわない
ビジネス向けパソコンやサーバーの今期出荷台数は軒並みマイナス成長の予測が出るなか、ハードメーカーにも新たな動きが出てきた。
富士通は4月1日付で、シーメンスとの折半出資会社でPCサーバーの開発・販売などを手がける富士通シーメンス・コンピューターズ(FSC)を子会社化。PCサーバー事業を富士通単独で仕切る体制に変えたことで、開発・設計のスピードを高める。野副州旦社長は、「プロダクトによる世界展開に向けた大きな一歩」と、改革の意気込みを示す。

資本提携による再編も活発化する。SRAホールディングスは今年2月、中国に子会社を持ち中国人技術者を活用したシステム開発事業を手がけるSJホールディングスに出資し、第3位の株主になった。この資本提携をテコに、オフショア開発を強化。開発コストの削減に努める。加えて、SJホールディングスの中国子会社に自社製品を提供し、中国で新たな商流の構築にも取り組む。富士通システムソリューションズ(Fsol)は今年3月、中国のソフト開発会社の貝斯(無錫)信息系統に出資した。狙いはSRAホールディングスと同様、ソフト開発コストの低減と自社製品の中国市場への投入だ。
新領域へ果敢に進出
ネットワーク機器ディストリビューションの東京エレクトロンデバイスは、システム構築(SI)事業へ進出する。従来のディストリ事業から大きく方向転換するわけだ。08年度(09年3月期)は、逆風にもかかわらず20社ほどからSI絡みの案件を獲得できた模様だ。
大手SIerの富士ソフトは、重点ターゲットを医療や公共など不況の影響を受けにくい業種へ拡大させる。同社にとって決して得意な分野ではないものの、医療危機を背景としたIT化の推進や景気対策が相次いで打ち出されており、「伸びる要素が大きい」(白石晴久社長)と手応えを感じている。ITのサービス化にも積極的で、大手SIerでは最も早くGoogleのエンタープライズパートナーになり、自らもデータセンターを活用したクラウドサービスに進出する。
不況が明ける頃には、旧来の売り切り型のSIや受託開発型のビジネスが、もはや通用しない可能性すらある。今年度こそが、ポスト不況(次にくる景気回復)を担うビジネスを仕込む最後のチャンスと捉え、変化に適応する必要がありそうだ。(木村剛士、佐相彰彦、安藤章司)
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不況と構造変化のダブルパンチ
ITベンダーにとって2009年度は、相応の覚悟を迫られそうだ。一足早く決算期を迎えた有力SIerのシーイーシーは、09年度(10年1月期)連結売上高を前年度比2%減、営業利益は同7%減と予想。09年1月期の受注残高を見ると、サービス事業は前年度比で約10億円増えたが、受託ソフト開発が約8億円減った。「受託ソフト開発の見通しが厳しく、楽観できない」(新野和幸社長)と打ち明ける。12月が決算期だった大塚商会も、これまでの好業績とは打って変わり、09年12月期は減収減益の見通しを示す。
住商情報システム(SCS)は、09年3月期の売上高予想を期初計画から3.5%、営業利益を同19.0%下方修正した。さらに阿部康行社長を含む経営体制の刷新を発表。阿部社長は、中堅企業向けのERPや海外SAPビジネスの拡充などSCSの強みを引き出す「とんがりビジネス戦略」を推進。強いリーダーシップを発揮した。しかし、一方で中期経営計画など中長期の成長戦略は一度も示すことができず、今年6月に退任する見通しとなった。
情報サービス産業協会(JISA)の浜口友一会長は、「今年の上期(4-9月期)が最も厳くなる」と警鐘を鳴らす。昨年9月のリーマン・ショックから半周(半年)遅れで、IT業界に本格的な影響が出ると見る。深刻なのは、不況による需要減退と同時に、クラウドやSaaSなど、ITシステムのサービス化という構造変化が同時に起こっていることだ。IBMは世界に先駆けてサービス化を打ち出したが、日本IBMは売り上げが伸び悩み、「集中治療室に入っている状態」(日本IBMに近いビジネスパートナー幹部)とささやかれる。世界のビジョナリー・カンパニーであるIBMでさえ構造改革は容易ではない。だが、行動を起こさなければ決して生き残ることはできない。逆境をバネにして“果敢に挑戦する新年度”でありたい。(安藤章司)