組み込みソフトビジネスの落ち込みに歯止めがかからない。SIerで組み込みソフト開発大手の富士ソフトや、この分野で強みを発揮してきたコアなどは今期(2010年3月期)、厳しい見通しを示す。組み込みソフトは、メーカーの新製品開発など先行投資の段階で需要が発生するため、景気動向を占う指針の一つとされてきた。だが、現時点では自動車や電機などが依然として厳しい状態にあることと、製造業ユーザーの徹底したコスト削減の嵐に抗えないSIerの窮状がうかがい知れる。
立ち塞がる「コスト削減の壁」
コアは今期(10年3月期)、主力としている組み込みソフト事業の連結売上高が前年度比28%減と、極めて厳しい見通しを示す。昨年度の段階から受注が思うように伸びず、「売り上げが2割減っても耐えられるコスト構造にする」(同社)と、危機に備えてきたが、その悪い予想が現実味を帯びる。富士ソフトも、昨年度(09年3月期)同事業の連結売上高は同5.2%減に甘んじた。これについて同社の白石晴久社長は、「よくこれだけの落ち込みで踏ん張れた」と、胸をなで下ろす。だが、同分野の期末受注残を見ると前年度比22.8%減と厳しい状況に変わりはない。
なぜ、ここまで厳しいのか──。まず、これまで需要が旺盛だった携帯電話の買い換えサイクルの長期化や開発規模の縮小が挙げられる。ただ、これはすでに織り込み済みであり、予想通りの展開だ。問題は、携帯電話のへこみを埋め合わせてくれると期待されていた自動車や情報家電の分野での開発投資に急ブレーキがかかったことにある。コアの簗田稔社長は、「メーカーによる内製化が進んでいる」と指摘。減産体制に入り、人員の余剰感が強まった自動車・電機メーカーが、グループ内で組み込みソフトの開発を手がける比率を増やしているというのだ。
2年ほど前までは、組み込みソフト技術者の不足が、製造業で大きな課題として浮上していた。情報サービス産業はここぞとばかりに組み込みソフト開発に注力。メーカーの開発人員の不足を補う形でビジネス拡大を推進してきた経緯がある。一方、付加価値の高いハイブリッドカーや情報家電に活路を見いだす自動車・電機メーカーにとって、組み込みソフトは“付加価値の源泉”。この中核部分を外部に委託するのはリスクが高いと判断したメーカーは、自ら組み込みソフトの開発人員を意識的に増やしてきた。ここに不況の波が押し寄せたことで、一気に内製化へ舵を切ったものとみられる。
自動車や情報家電は、「今後、必ず有望市場になる」(富士ソフト)と、SIerがこれまで指向してきた方向性は間違っていないと判断している。しかし、今回、組み込みソフトビジネスの構造的な“弱点”が露わになったことで、将来的に事業構造の見直しを迫られる可能性もある。(安藤章司)