街中で見かける看板広告。少し工夫を加えれば、行き交う人々の目を釘づけにすることが可能だ。そうしたインパクトを与える媒体として、「デジタルサイネージ」が注目を集めている。ユーザー企業側では、ASPなどネットワークを介したコンテンツ配信のニーズも高まってきた。一方、ITベンダーにとっては、販促活動の観点からIT関連の新しい製品・サービスを提供できる可能性が期待されている。(佐相彰彦●取材/文)
国内市場への普及を目指して
六本木ヒルズや東京ミッドタウン、丸ビルや秋葉原など、来訪者が多い場所ではデジタルサイネージ関連のシステムが設置されているのを目にすることが多くなってきた。コンテンツを配信する側は、エスカレータで昇る途中や人通りの多い場所などでデジタルサイネージを用いて目立つPRを行い、来店率や来訪率をアップさせようとしている。現段階では、コンシューマの目に看板広告などとはひと味違うPRと映るため、口コミによる広がりも期待できる。映像でインパクトを与えることが、デジタルサイネージによるPRを採用する最大の狙いといえよう。ITベンダーはこれらの点を踏まえ、デジタルサイネージ関連システムをユーザー企業に提案していくことが重要となる。
こうした状況のなか、ITベンダーの事業拡大に少なからず寄与する展示会が「デジタルサイネージジャパン 2009」(6月10~12日、幕張メッセ)である。
同展示会では、「公共施設」や「交通」「店舗」など10種類弱の分野で実現できるシステム・サービスを出展企業が披露。適した製品として、「デジタルサイネージシステム」「プラズマディスプレイ」など、メイン商材をはじめとして20種類程度が出展された。「衛星通信システム」や「ICカード関連」「配信システム」など、これから需要が伸びることが予想されるシステムについて、導入イメージを踏まえながらデモを実施した出展企業もあった。
運営会社として、企画提案を担当したCMPテクノロジージャパンの大嶋康彰・取締役副社長事業推進本部長は、「デジタルサイネージという新しいメディアは、ディスプレイの品質向上や低価格化、ネットワークの進展などが絡み合って登場した。最近では、採用を検討するユーザー企業が出始めている。この展示会は、デジタルサイネージを国内市場で普及させることを目的に実施した」としている。黎明期という点から、さまざまな切り口でシステムやサービスを展示。できるだけ早く市場を普及段階にまで進めることが、展示会を開いた目的だとしている。
システム・サービスの創造へ
デジタルサイネージ市場を拡大させるためには、「新しいシステムやサービスが活発に導入されるようになることがポイント」と説明する。とくに、「ASPやSaaSなど課金方式のコンテンツ配信サービスが市場の活性化につながるのではないか」とみている。
現在、デジタルサイネージで一般的なのは、大型ディスプレイに一定の映像を流すケース。デジタル化によって、「看板広告の映像版」に発展した形だ。この形式だと、「宣伝媒体とするには、リアルタイム性に欠ける面がある」という。ネットワークインフラを構築し、日や時間、時期に応じてコンテンツをリアルタイムに配信する。デジタルサイネージを見る側にとっては有益な情報を収集できることになる。こうしたことから、「コンテンツ配信サービスの拡充がデジタルサイネージ需要の急激な増大につながるきっかけとなるはず」と判断している。ベンダー側のビジネス拡大については、コンテンツ開発や配信サービス、ネットワークインフラの構築などの案件が獲得できる可能性を秘めている。
また、大嶋本部長は「メディアの本質を追求していけば、今後はデジタルサイネージが主流になっていく」としたうえで、「システムを導入するベンダーと詳細に話し合い、どのようなPRが最適なのかを決めていくべき」とアドバイスする。デジタルサイネージが黎明期にある現段階では、関連のシステム・サービスが確立していないのが実情だ。屋外でのPRは、今に始まった手法ではない。そのなかで、企業はどのようなPRを行うべきなのか。「導入しなければならないシステム・サービスを、ITベンダーとユーザー企業が共同で創造していくことが必須になってくる」という。市場がこれから伸びるという点で、新しいシステム・サービスの創造は、ユーザー企業にとって他社を先行して今までとは異なったPR活動ができるようになる。ITベンダーにとっては、新事業として立ち上げることで業績拡大につながりそうだ。