大塚商会、ソリッド社の製品で啓発
大塚商会(大塚裕司社長)のCADプロモーション部では、CAD製品メーカーのソリッドワークス・ジャパン(以下ソリッドワークス)と協力し、国内製造業の部品設計手法で注目度が高まっている「公差解析」に関する啓発活動を積極化している。公差は、完成品(製品)を構成する各部品の「形の崩れをどこまで許すか」という許容範囲のこと。従来はこれを設計者が手計算または流用で割り出していた。だが、組立加工業では熟練の職人が減り、経験が乏しいスタッフが増えている。生産工程上でのトラブルを防ぐのはもちろん、製品の品質向上や開発期間短縮のために、より精度の高い数値算出が求められている。同社が5月下旬に東京で開催したセミナー「今だからこそ見直す設計環境」には、中小から大手の製造業など130社170人が参加するほど関心が高まっている。■バランスが必要な公差解析
公差とは各部品の許容範囲を指す。従来は各部品の値を決めるCAD設計者が、長年の経験則からこの許容範囲(公差)を解析してきた。だが公差解析にはバランスが求められる。ゆるくすると加工・製造現場で部品が組み付かず、逆に公差を厳しく要求すると部品単価が跳ね上がるというジレンマに陥っていた。さらに、加工・製造現場では派遣労働者など期間従業員が増えているため、未熟な技術者がいる加工現場に適した公差解析が求められているのだ。

同セミナーではまず、公差解析コンサルタントの先駆者であり、大塚商会とコンサルティング契約を結んでいる設計技術者支援会社、株式会社プラーナーの栗山弘社長が講演。多品種小ロット生産や開発期間短縮、製造原価削減など厳しい要求を突きつけられている加工・製造業の実状を分析した。こうした業界環境を背景に、「公差設計・解析の必要性が再認識されている」と、製品品質の向上や発注先の厳しい要求に応えるために、手計算を脱してツールなどの利用を勧めた。
■手計算では現場が混乱
講演に引き続き、電子楽器メーカーであるローランドの子会社、ローランドディー.ジー.(ローランドDG)が事例を発表した。
同社はコンピュータ周辺機器製造販売会社で、ソリッドワークスの3次元CADツール「SolidWorks」のユーザー企業である。事例発表では、「当初、『3次元公差解析は難しいもの』と考えていたが、『SolidWorks Premium』に搭載されている3次元公差解析機能『TolAnalyst』を利用したら、その思い込みを払拭できた」という体験が語られた。
ローランドDGは、大判インクジェットプリンタの生産に「デジタル屋台」(セル生産)方式を採用している。同社の「デジタル屋台」は、加工・製造作業マニュアルを図解した「SolidWorks」で作成した3次元CADデータを個々の作業台(屋台)に設置したパソコン画面に映し出し、表示に従って作業を進めることができる。ドライバーや機器類の使用方法が分からない未経験のスタッフでも、これに沿って作業を行うことで簡単に組み立てられる。半プロでも大丈夫というわけだ。
しかし一方で、職人肌の熟練者が減っており、組立現場の不具合率を引き下げるために公差解析が重要になったという。ローランドDGでは、仮に部品100個のうち1個が組み付かない場合、品質保全のため、それ以外の部品も「使えない部品」と判断する。この際にはいったん生産ラインを止め、部品をすべて測り直すこともあり、修正に2~3日を要することもままあった。
ローランドDGは、早い段階でツールに着目し、「TolAnalyst」を採用したことで、生産性を向上させ、コスト削減、品質向上、納期短縮を実現することができた。公差解析では、腕利きの職人が減少一途の現場を考慮すると、設計者の腕が問われる。だが、ほとんどの設計技術者は、既存図面の流用や先輩設計者の算出結果を参考にするなど、属人的な計測に任せているケースが少なくないのだ。今後の日本のものづくりにおいて、世界中の企業との競争激化で、適正な公差解析は避けて通れない。
■安価なツールで生産革新
CAD事業で実績のある大塚商会は、こうした現場の声を受け、公差解析ツールの普及を目指し、セミナーなどを積極的に実施している。同社の佐々木淳・CADプロモーション部製造プロモーション1課上級課長は「公差解析ツールは高価な製品が一般的。だが、ソリッドワークス社の製品は150万円(CAD含み)程度と、中小設計会社でも導入できる。公差解析は、依然として手計算が一般的。しかし、製造業は景気の影響をもろに受けるなど、市場環境が厳しさを増している。ローランドDG社などのように、生産効率を上げるうえで、ツールの利用は必須だ」と語る。同社によると、「『SolidWorks』製品の販売は、2008年度(08年12月期)は前年度比111%に伸びた」(同)と、他のCAD販売会社と公差解析で差別化し、事業の売り上げを伸ばしている。
同セミナーではこのほか、地域で活躍するCADサポート員を講師に、「SolidWorks」を実務レベルで使うようにするため、実機を使ったハンズオンも行った。「参加者は超大手メーカーから個人事務所レベルの人まで幅広く参加した」(佐々木上級課長)と、関心の高さを実感している。同社では7月14日、東京に引き続き大阪地区で同様のセミナーを開催する。
http://event.otsuka-shokai.co.jp/09/05sss/