
クラウドビジネスでマイクロソフト(樋口泰行社長)の本格的な追撃が始まった。今年度(2010年6月期)の重点分野の一つにクラウドプラットフォームの「Windows Azure(ウィンドウズ・アジュール)」を挙げ、まずは年内に北米での商用利用を始める。GoogleやAmazonなど先行するクラウドベンダーに比べ、およそ2年遅れての商用投入。厳しい戦いを強いられることになるが、「シェア争いは得意」(マイクロソフト幹部)と、かつての“インターネットブラウザ戦争”や“オフィスソフト戦争”のように挽回できると自信を示す。
樋口泰行社長は、Azureの商用化で「空と大地の両方をサポートする製品が揃う」と話す。Azureが“空”で、既存のOSや表計算、ワープロなどのパッケージソフトを“大地”にたとえ、両方の商材をもつのが自身の強みだとする。確かにクラウドでライバルとなるGoogleやAmazonは、マイクロソフトのようなパッケージはもたずに“空”を主戦場とする。
マイクロソフトは、この“空”での戦いでライバルに大きく出遅れている。自身も「商用化は遅れた」(同社)と認め、挽回に向けて「あらゆる投資をする」(平野拓也・執行役常務エンタープライズビジネス担当)方針を掲げる。実はマイクロソフトには、過去にも同じような“出遅れ”の事例がある。ネットスケープとのブラウザ戦争や、ジャストシステムやロータスとのOffice戦争では、追い上げる側に立って巻き返しを図り、勝利を収めた。
今回のクラウド戦争ではどうか。カギを握るのは、パートナー施策である。先行して今年4月からSaaS方式でサービスを始めた同社の「Online Services」では、大塚商会や内田洋行、日立システムアンドサービスなど、有力販社がパートナーに加わった。Azureビジネスでもパートナーを重視した展開をするのは確実で、Azureによるサービスや、Azureの仕組みそのものをパートナーを通じてユーザー企業に販売していくものと思われる。

具体的なサービスの中身についてはまだ明らかではないが、おそらく情報系や基幹系、あるいは中小企業向けのSmall Business Server(SBS)で提供してきたような機能が段階的に搭載される可能性がある。「他のクラウドベンダーにはない、競争力をもつアプリケーションをもっていることが強み」(平野常務)と、自身の立ち位置を捉える。ただ、例えばこれまでSBSが担ってきた中小企業向けシステムの少なからぬ部分がAzureに吸収されることも考えられ、中小企業向けの商材は「調整が必要」との見方も示した。
最大の強みであるパソコン用OSでは異変が起こった。クラウドで競合するGoogleが、パソコン用OSへの参入を表明。Vistaでつまずいたマイクロソフトは、今年10月22日に一般向けに発売するWindows 7で挽回を狙うが、状況が変わる可能性もある。クラウド時代の新たな収益の柱を打ち立てるまでに、残された時間は少ない。(安藤章司)