業務を可視化し、ニーズを探り、その課題を解決するための要件を定義する知識体系「BABOK(バボック=Business Analysis Body Of Knowledge)」。ITコーディネータがユーザー企業の業務改革を行う際の参照(リファレンス)として、注目を集めている。
中堅・中小企業のIT投資では、ITの知識が不十分なユーザー側のあいまいな要求提案書(RFP)の不備を、経営知識が不足しているベンダーが自己解釈した結果、経営目標の実現とはかけ離れた「使えないシステム」になってしまうケースが後を絶たない。
これを解消する妙手となりそうなのがBABOKだ。業務を可視化し、ビジネスニーズを引き出し、課題解決のために必要なものを整理する知識や進め方の知識体系で、ユーザーとベンダーとの溝を埋めるためのものだという。
ITコーディネータは、全員が「ITコーディネータプロセスガイドライン(ITCプロセス)」をもっている。これは、IT経営(ITを生かし会社の競争力を高める)を実現するために、ユーザー側がITを導入する際の進め方や考え方、さまざまな局面に遭遇した場合の判断基準を標準化したものだ。「経営戦略」「IT戦略策定」「IT資源調達」「IT導入」「ITサービス活用」の5フェーズと、全体を円滑に運営するための共通ガイドラインから構成され、経営戦略と具体的な実施内容と整合性を常にチェックしながら進める。
ITCプロセスは大枠の流れを示した「メタフレーム」なので、具体的にどのように業務改革を行うかについては書かれていない。そこで、目指すべき姿に向けて、ITコーディネータが各フェーズで参照するものが、リファレンスだ。具体的には、「IT導入」フェーズでのプロジェクトマネジメントの知識体系「PMBOK(Project Management Body Of Knowledge)」や、「ITサービス活用」でのITシステム運用の考え方「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」、また「IT戦略策定」のでの「BABOK」などになる。失敗を繰り返しながら積み上げたノウハウをまとめたもので、「ITコーディネータがIT経営を実現するうえで知っていなければいけない『常識』として位置づけている」とITコーディネータ協会の前田信太郎部長(育成・認定担当)は話す。

前田信太郎部長
とくにBABOKは、昨年日本語化したばかりの知識体系で、国内で注目を集めている。「これまでは『業務改革を行う専門家』を育てるような知識体系があまりなかった」(前田部長)だけに、関心を呼んでいるのだ。背景には、これまでの企業独自の方法や経験や勘に頼った属人的なやり方から、標準化したプロセスに従う方法に変わっていこうとする世の中の風潮があるという。ITコーディネータがBABOKを参照することによって「網羅的に可視化、ニーズを探ることができ、効率的な業務の進め方を模索できる」(同)ことがメリットだ。あくまでも「リファレンス」であり、協会は「いいものがあれば活用する」(同)というスタンスだが、地域のITコーディネータのコミュニティでも研究会が発足するなど、BABOKを活用する機運は高まっているようだ。(鍋島蓉子)