独立行政法人である情報処理推進機構(IPA)の西垣浩司理事長が、1年半ぶりに報道関係者向け記者説明会を開いた。政権を握った民主党による脱官僚、大胆なコスト削減方針で、各省庁やその外郭団体は、予算の見直しや組織再編に怯え、戦々恐々としている。IT業界では、「経済産業省関連のIPAはどうなるのか?」と自然と話題になっていた。西垣理事長は、その影響について明言を避け、IPAが担っている今のミッションの重要性を主張するにとどまった。
報道関係者向け説明会に西垣理事長が登壇したのは、今回が2回目で実に約1年半ぶり。IPA初の民間企業出身理事長の登場は久々だった。
NECを離れ、独立行政法人のトップに座ってから約1年半が経過し、これまでを振り返ってIPAの印象をこう語っている。「民間企業に比べて、利潤概念がないこと、事業を進めるスピードが遅いこと、そして組織間にある壁の厚さに戸惑った」。NECの元社長として組織再編、構造改革を断行してきた辣腕経営者には、IPAの事業体制に多少の“ヌルさ”を感じていたようで、その胸の内を漏らした。
久々に開いた会見が民主党政権の誕生直後というタイミングから、当然ながら記者からはその影響についての質問が出た。だが、西垣理事長は、「先が読めない話。IPAがもつ役割を果たすだけ」という発言にとどめて、明言を避けた。まるで今のIPAの存在価値を示すのが目的のように、手がける事業とその役割を説明するのに多くの時間を割き、新たな方針、施策の発表はなかった。IPAが手がける事業の重要性を主張することに終始した格好だ。

西垣浩司理事長。記者からは政権交代による影響の質問が多かったが、終始明言を避けた
IPAの役割は、大きく分けて四つある。(1)日本のソフトウェアエンジニアリング力強化、(2)人材育成、(3)情報セキュリティ対策、(4)オープンソースソフトウェアの普及促進がそれだ。ユーザーとITベンダー、そして政府機関の間に入り、各部門で国家的競争力を向上させることがミッション。「情報処理技術者試験」の運用やセキュリティ情報の発信などはIPAの担当業務で、そのすべてが重要だ。
ただ、今のIPAには新たな施策がない。日本のソフト産業を国家的視点でけん引する立場ならば、地方のITベンダーと中小ソフトハウスの育成などは急務なはず。
「先が読めない話」というのは事実だろうが、IPA職員からはこんな話が漏れてきた。「政権が代わった数日後、執行中の予算を改めて精査する動きがIPA内で横断的にみられた」。無駄なコストを1円でも削りたい政府だけに当然起こりうること。今後IPAの事業縮小がないとは言い切れないだろう。そんな時だからこそ、今のIPAには、存在価値を訴えるためにも、時流に合う現実に沿った新たな施策をスピーディに打ち出すことが求められているのではないだろうか。(木村剛士)