レノボはブランド力の向上に力を入れている。その一つがF1チームとのパートナーシップだ。2007~08年にAT&Tウィリアムズ、09年からはボーダフォン・マクラーレン・メルセデス(マクラーレン)のスポンサーになった。マクラーレンにはマシン設計のコンピュータシステムやエンジニア用端末を提供。10月2日には三重県の鈴鹿サーキットで実際のシステムを公開した。モータースポーツの頂点であるF1でのレノボの取り組みについてレポートする。

ボーダフォン・マクラーレン・メルセデスのF1マシン(写真はすべてレノボ・ジャパン提供)
時間とコストを大幅削減 100分の1秒単位で競うF1の世界で、最重要項目となるのがマシン設計だ。ベースとなる図面作成はもちろん、レースごとに異なるマシンのコンディションを常に分析し、細かな設計上の変更が不可欠になっている。同時に、素早く作業を終了するというスピードも求められる。
こうしたシビアな要求に対し、レノボは標準構成で123台のThinkStation S20ワークステーションをマクラーレンの設計部門に提供した。内容はCPUがXeon W3570、500GBのHDD、8GBメモリ、64ビット版のWindows XPという構成だ。
マクラーレンも、それまでのマシン設計のCADシステムをサンのUNIXワークステーションからレノボにすべて切り替えた。レノボとの契約もあるが、使用していたCADソフトのメーカーがUNIXのサポートを終了しようとしていることも理由になっている。
マクラーレンでは、レノボのワークステーション導入によって図面変更が以前に費やしていた時間の75%減、シミュレーションは同30%減で完了できるようになったという。また、チームの二酸化炭素削減と電力のコストダウンにも寄与。電気代を年間5万ポンド(約700万円)も減らすことができたとしている。
レノボではノートPC「ThinkPad W500」も提供。80台が導入された。個々のエンジニアが使用する端末として、サーキットでマシンの状態や走行分析、自宅での作業用などに使われている。
「レノボ」の認知度を高める 10月2日、レノボはF1日本グランプリが開催された鈴鹿サーキットで、マクラーレンに導入したシステムの一部を報道陣に公開した。
練習走行日に当たるこの日はあいにくの雨模様だったが、マクラーレンのピット内ではThinkPadを手にしたエンジニアがマシンの設定や調整、走行データのチェックといった作業を手早く行う姿が見られた。

ピットではエンジニアがThinkPadを使ってマシンの状態や走行データをリアルタイムでチェックする
今やF1ではエンジニアはもちろん、レースに勝つためにはドライバーもPCを使いこなせなければ表彰台で銀杯を手にシャンパンを浴びることはできない。そのため、PCには高い性能と使いやすさが求められる。マクラーレンの担当者は、ThinkPadについて「性能・操作性ともに非常に満足できるマシンだ」と話している。

ドライバーはデータを見ながらエンジニアとレースの作戦を練る。中央はマクラーレンのドライバー、ルイス・ハミルトン

ドライバーはThinkPadを使ってマシンに乗ったままでもデータを確認することができる
また、ピットの内に組まれたマシンルームには液晶ディスプレイの「ThinkVision」を大量に設置。エンジニアがリアルタイムでデータの分析や確認する様子も公開された。

ピットの奥にあるマシンルーム。壁には「Think Vision」が所狭しと並べられており、レースの状況に応じてデータが次々と映し出されていく
レノボでは認知度アップのため、とくに世界的なスポーツイベントのスポンサー活動に力を入れてきた。F1以外では、08年の北京オリンピックのスポンサーも務めている。その背景には、「ThinkPad」という高いブランド力のPCをもつ割に、メーカーの認知度がそれに追いついていないという認識がある。
レノボ・ジャパンのロードリック・ラピン社長は「F1やオリンピックのスポンサーになったことで、メーカーとしての世界的なブランド力はかなり上がってきている」と手応えを感じている。
一方、日本では07年度シーズンに東京ヤクルトスワローズのスポンサー契約などを通じ、知名度アップを図ってきたが「まだまだ知られていない」(ラピン社長)と感じており、国内でのブランド力アップに向けた新たな施策も打っていく考えだ。