情報サービス業界の再編が加速している。SIer大手のITホールディングス(ITHD)は、中堅SIerのソランを傘下に収めると発表。住商情報システムはCSKホールディングス(CSKHD)との資本業務提携に向けて協議中だ。足下の受注環境は不安定で、受託ソフト開発に対する需要の縮小傾向に歯止めがかからない。こうしたなかで、規模のメリットを生かすことで勝ち残りを目指すSIer経営陣の心理が前面に出てくる。しかし業界内には、単純に規模を追求するだけでは、「プログラム開発の余剰人員を増やしかねない」(別の大手SIer幹部)との厳しい見方もある。
ITHDとソランの昨年度(2009年3月期)連結売上高の単純合算ベースでは、年商4000億円の巨大SIerが誕生することになる。住商情報システムもCSKHDとの資本業務提携の協議を進めており、「本気ではない、ということはない」(中井戸信英会長兼社長)と交渉の進展に意欲を示す。しかし、課題は再編相手の業績やビジネスモデルが必ずしも好調とはいえない点にある。ITHDとソランはともに今年度(10年3月期)減収減益の見通しで、今期ベースの単純合算値は3720億円にとどまる。ITHDの岡本晋社長は、「一過性のもの」と、4000億円規模の実力をもつことに変わりないと鼻息が荒い。

ITホールディングスの岡本晋社長(左)とソランの千年正樹社長
確かにITHDとソランは、8割方の顧客が重なっておらず、クロスセルなどの相乗効果が期待できる。旧インテックホールディングスグループと旧TISグループが経営統合し、08年4月に誕生したITHDは、今年上期で、両旧グループのクロスセル効果の受注件数が39件、金額で23億円と、すでに昨年度通期の額とほぼ並ぶ効果を上げた。
また、昨今のクラウド/SaaSへの流れのなかで、ソフト開発が中心のソランでは、顧客の要望に十分に応えられない場面が増える可能性がある。ITHDは国内外で最新鋭のデータセンター(DC)建設を急ピッチで拡充中で、11年4月に都内に新設予定の次世代DCなどを含め、国内だけで19拠点、約11万㎡と国内最大規模を誇る。ソランの顧客をITHDのクラウド/SaaS商材へと誘導できるメリットがある。
中国やインドでの受注ソフト開発の能力向上も著しく、国内のプログラム開発要員の余剰感がこれまで以上に増す恐れがある。ITHDの岡本社長は、「業界の共通課題だ」と言葉を濁すが、他の大手SIer幹部は、「ソランがもつ顧客基盤とプログラマ余剰のリスクを天秤にかけた結果」と冷静に捉える。人員余剰のリスクを負ってでも、顧客基盤の拡大による規模の強みに価値を見いだしたといえる。住商情報システムも同様のリスクを抱えての交渉とみられ、今後どう進展するかは不透明だ。
ソランの千年正樹社長は、「今のままでは、グローバルで戦う力が不足している」ことを、ITHDグループの傘下に入る理由の一つと説明する。業界再編による構造改革によって内憂外患を乗り切ろうとする動きが今後も強まるのは必至だ。(安藤章司)