コンピュータソフトウェア協会(CSAJ、和田成史会長)は、2009年8月から取り組んでいたクラウド環境調査・研究レポートをまとめ、3月末をメドに会員企業に公開する。それに先立ち、本紙は、同協会の常任理事でクラウドコンピューティング研究会の主査を務める山本祥之氏(インテリジェントウェイブ社長)に単独取材し、分析結果を聞いた。山本氏は、「日本よりも海外のほうがクラウド環境ははるかに進んでいる」と断言している。
調査研究会のトップがその骨子を語る
──調査・研究対象に置いたクラウド環境と調査項目は何か。
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クラウドの調査研究会の トップを務めるCSAJ 常任理事の山本祥之氏 |
山本 主に外資系で、グーグル、アマゾン、セールスフォース・ドットコム、マイクロソフトの4社が提供するクラウドインフラを調べた。主な調査内容は技術的なもので、ISVなどがこれらのクラウド環境を活用する際、どのようなアプリケーションに適しているかなどを調べた。具体的な内容は3月末をメドに公開する資料で解説する計画で、今はまとめている最中だ。
──国外のクラウド環境と、NECや富士通などの国内ITベンダーが提供する環境の相違点は?
山本 正直にいえば、国外のクラウド環境は相当進んでいる。日本がそのレベルに到達するのはかなり時間がかかるだろう。現時点での見解だが、日本は単純にハードウェア環境を提供しているだけにとどまっているが、海外はミドルウェアを含めた“プラットフォーム”として環境を用意している。ただ、海外のクラウド環境は、カスタマイズ性に乏しく柔軟性がない。その点では日本のほうが優位性はある。海外のクラウド環境では汎用的なアプリを、国内では特有のプラットフォームが必要なアプリといった形で棲み分けるのも戦略の一つだろう。また、調査を通じて、コンシューマ向けのネットサービスを立ち上げるには、海外のクラウドのほうが適しているとも感じた。
──海外勢に押される可能性はないのか。
山本 フロント系などの汎用的なアプリは、海外勢に押される可能性が十分ある。
──CSAJは多数のISVが会員だ。ISVはクラウドの流れをどうみているか。
山本 海外のクラウド環境を積極的に活用していく動きはまだない。一部のISVが自社でデータセンター(DC)を構築したり、国内のクラウドベンダーと協業したりして、SaaS形式のサービスを提供する動きはみられる。ISVのクラウドに対する動きも、他国のほうが進んでいるように感じる。
──確かに、ベンダーもユーザーも海外のほうがクラウドに対する関心は高いといわれる。日本では政府主導のクラウドといえる「J-SaaS」が始まったが、思うように普及していない。
山本 「『J-SaaS』は、一つのIT基盤上に複数アプリが稼働し、ユーザー企業はWeb画面から欲しいアプリを選んで購入できるのはメリットだろう。ただ、各サービス間のデータを連携させることができないのが最大の弱点だ。一つのインフラ上にアプリを稼働させる意味がなく、それが普及を遅らせている要因だと思っている」