富山県にクラウド・コンピューティングを集積する動きが活発化している。SIer最大手グループのITホールディングスグループで富山県をビジネス基盤にする高志インテックは、クラウド運用技術者を向こう2年をめどに100人体制へ増強。北陸電力グループの北電情報システムサービスは、PaaSに相当するクラウド・サービスを今年3月から本格的に始めた。ソフトウェアの受託開発の需要が大きく落ち込むなか、サービスビジネスで地域IT産業の振興を狙う。

インテック高岡ビルの完成予想図
インテックや北電情報がけん引
高志インテック(川上留嗣社長)は、親会社のインテックが地元富山県に最新鋭のデータセンター(DC)を竣工するのに合わせて、クラウド・コンピューティングの運用人員を大幅に増員する。インテックは、今年8月にDC機能をもつインテック高岡ビルを竣工、また、2011年4月には北陸電力と協業して総床面積約6500m2の次世代DCを県内に立ち上げる予定だ。高志インテックは、現在20~30人の体制で既存のアウトソーシングサービスなどを手がけているが、富山県内に相次いで自社グループ関連のDCが開設されることを踏まえて、人員体制を拡充する。
インテックグループは、富山でソフト開発の人員や技術の集積度を高める“ソフトウェアファクトリー”化を推進してきた。しかし、IT産業の開発型からサービス型への構造変化や、経済危機に伴う受注環境の悪化が進行。従来型のソフト開発だけでは、コスト競争力が高い中国・インドなどのオフショア開発勢との競争にも不利だと判断した。そこで、最新鋭のDCを基盤とした総合的なITサービスの集積度合いを高めることによって、地域IT産業を発展させる戦略を打ち出す。高志インテックは、こうしたグループの動きに沿って、「運用エンジニアのスキル転換を急ぐ」(川上社長)と、意気込む。
地元有力SIerの北電情報システムサービス(並木誠社長)は、サーバー仮想化技術を駆使した仮想専用サーバー(VPS)などのサービスメニュー「ハイパーサーバ」を今年3月に整備。VPSではこれまでの物理的な専用サーバーと同等の機能で、価格を月額1万1970円からに抑えた。同社は自社DCによる企業顧客向けのアウトソーシングサービスや、一般顧客向けのインターネット接続、ホスティングサービスに取り組んできたものの、PaaSに相当するクラウド型のサービスメニューを本格的に整備したのは今回が初めて。
地元中堅・中小SIerの多くは、自社でDCを所有しておらず、クラウド型ITシステムの開発に後れをとるケースがみられる。北電情報システムサービスでは、「ハイパーサーバ」上に業務アプリケーションを開発したり、同サービスを販売するパートナーを募集。自身による直販だけでなく、地元SIerやソフトハウス、ウェブ開発会社など10社程度に、サービスのビジネスパートナーになってもらう予定だ。来年度(2011年3月期)中には、パートナー数を倍増させて営業力や開発力を高め、トータルで500案件ほどの獲得を見込む。
SIerやソフトハウスからみれば、割安でPaaS方式の仮想サーバーを利用でき、競争力の高いクラウド型ITシステムの開発に弾みがつくメリットがある。北電情報システムサービスは、「地元インフラ企業のグループSIerとしての強みを発揮する」(中村聡志・IPソリューショングループ技術チーム副課長)ことで、地域IT産業の底上げと自らのクラウド型サービスビジネスの拡大に意欲を示す。
首都圏を中心とする大手SIerの外注費削減や、クラウドなどサービス化へのシフト、オフショア開発の台頭などで、地域の受託ソフト開発市場は大きく冷え込む。富山では、最新鋭のDCサービスの集積度を高め、地域のみならず、首都圏などからの大口需要の取り込みも視野に入れる。クラウドの流れに乗ることで地域IT産業を振興させる、一つのモデルケースといえそうだ。
【関連記事】売り上げ激減、地元SIerの悲鳴
DC活用で、損失回避のケースも
富山県などの北陸地区では、リーマン・ショック以降、製造業のIT投資が大きく落ち込み、首都圏などの大手SIerから来るソフト開発案件も激減。「売り上げが3割減った」「社員を自宅待機させている」という地元SIerの切迫した声が相次ぐ。
ところが、自らデータセンター(DC)を運営し、アウトソーシングビジネスをコツコツと積み上げてきたSIerのなかには、経済危機の打撃を最小限に食い止めるケースがみられるのだ。
流通・小売に強いジェイ・エス・エス(金沢市)は、昨年度(2009年3月期)連結売上高が過去最高の47億円に到達。今期も増収を見込む。その原動力の一つが、DCを活用したアウトソーシングである。
同社は、石川県内に2か所目のDCを06年に開設したのに続き、09年12月には東京事業所にもDCを整備。顧客企業の基幹業務システムを預かることによって、システム改良や増強などの受注を安定的に獲得している。直近の売上高に占めるアウトソーシング関連の比率は約3分の1を占め、同社の杉本昌保社長は「向こう5年で(同比率を)5割に高める」と、DC活用型のビジネス拡大に意欲を示す。
システムサポート(金沢市)も、石川、東京、愛知の3か所のDCを運営。複数のDCで相互にバックアップをとり、災害時でも顧客の事業を継続できるようにサポートする。同社は、「特定の顧客に深く入り込む“顧客特化型”の戦略や、Oracleデータベースなど特定の技術を深く掘り下げる」(小清水良次社長)などの取り組みと並んで、アウトソーシングも重視。今期(2010年6月期)連結売上高で17期連続増収を狙う。
今後拡大が見込まれるクラウド・コンピューティングは、DCの活用が前提だ。アウトソーシングからのクラウドへの移行は比較的容易であり、今、改めてDC活用型ビジネスの重要性が問われている。(安藤章司)

北陸電力とインテックが共同で建設中の次世代型DCの完成予想図