地域を駆けるシステムプロバイダ 列島IT事情

<地域を駆けるシステムプロバイダ 列島IT事情>北陸編(上)

2008/02/11 20:37

週刊BCN 2008年02月11日vol.1222掲載

 IT産業の集積が急ピッチで進んでいるのが北陸地区だ。ソフトウェアやハードウェアの“ファクトリー(工場)”としての役割が増しており、生産体制の拡充が相次ぐ。富山県では北陸のSIer最大手のインテックグループが“ソフトウェアファクトリー構想”を強力に推進し、石川県のディスプレイメーカーのナナオは昨年3月に大規模な研究開発棟を竣工した。スキャナやキオスク端末を開発するPFUも増産に力を入れる。本シリーズ・北陸編の前編はソフトウェアベンダーの動向、後編はハードウェアベンダーや人材育成などの側面から“IT街道・北陸”をレポートする。(安藤章司●取材/文)

産業の集積進む“北陸IT街道”
ソフトウェアファクトリー化を推進

■産業集積で価値を高めるITと産業機械、医薬が柱

photo  北陸地区は地元のマーケットが小さく、域内だけでビジネスを伸ばすのが難しい。そこで打ち出したのがIT系のファクトリーを集積させる戦略だ。ソフト・ハード両面での生産力を高め、首都圏などから大口需要の取り込みに力を入れる。情報サービス産業は緩やかながら拡大を続けており、大都市圏では高度な技術を持つ人材を確保しにくい。こうした状況も北陸地区へ開発や生産を委託する動きを後押しする。

 ソフトウェアファクトリー構想をいち早く打ち出し、富山を中心に開発体制の強化を進めるインテックの金岡克己社長は、「産業集積は非常に重要」と説く。分かりやすい例は東京・秋葉原だ。コンピュータやサブカルチャーが集積することで、秋葉原らしい魅力が形成されている。北陸も同じでソフトウェアやハードウェアファクトリーの集積度を密にしていくことで価値を高めるという考え方だ。

 行政もIT産業の集積に力を入れる。富山県では地域経済活性化を目的とした「企業立地促進法」に基づく支援措置を昨年7月、全国で最も早く打ち出した。対象はITと産業機械に加えて“くすりの富山”の伝統を受け継いだ医薬製造の3つ。設備投資や不動産取得にかかわる税制優遇措置を柱とし、市町村レベルでも固定資産税の優遇などを予定している。ITと機械、医薬はともに相乗効果が期待できる分野で、「ハード・ソフトの両面での集積を加速させる」(富山県商工労働部商工企画課の舟根秀也・企画係長)と鼻息が荒い。

 富山県情報産業協会の並木誠会長(北電情報システムサービス社長)は、「精密機械向けの組み込みソフトやFA(ファクトリーオートメーション)制御用ソフトの需要拡大が期待できる」と、ハードメーカーとの連携による活性化を見込む。インテックも遺伝子解析技術などを手がけるグループ会社を持つなど医療とITを融合させたバイオインフォマティクス事業に力を入れる。

 東京から北陸を結ぶ北陸新幹線の工事も着々と進んでいる。富山に本社を置くSIerの日本オープンシステムズは、金沢、長野、東京と北陸新幹線に沿っていち早く営業拠点を設置。各地域に根ざした営業を今のうちから展開することで、「顧客との関係をより深くしていく」(大蔵政明社長)方針だ。ソフト開発は富山で担い、東京や長野、金沢方面からも受注できる仕組みをより強化することでビジネス拡大を目指す。

■生産革新でコスト半減狙う 得意技生かし競争力高める

 大手メーカー系SIerも北陸でのソフト開発を拡大させている。北陸日本電気ソフトウェア(NECソフトウェア北陸)は、NEC本体のミドルウェアや組み込みソフト、NGN(次世代ネットワーク)など通信ソフトの開発に注力。さらに2年前からソフトウェアの生産革新にも取り組み、2009年度までに開発工程におけるコストを従来比で半減させる目標を立てる。「開発工程の標準化などを通じて、目標達成に手応えを感じている」(村田萬亀雄社長)と表情をやわらげる。

 生産革新では、まず作業単位を明確化することから始めた。現在では半日単位で作業を切り分けるところまできた。遅れが出そうな兆候がみえた段階で報告をあげる仕組みをつくり、手が空いているSE・プログラマがすぐに手助けに入る。こうすることでスケジュールの遅れを未然に防ぎ、ソフトウェアファクトリー全体の稼働率を高める。将来的にはさらに細かい単位で作業を切り分け、柔軟性をより高める考えだ。

 富士通北陸システムズは、富士通本体のアプリケーションサーバーなどのミドルウェアの開発に力を入れる。あらかじめ決められた仕様通りに開発するだけでなく、同社が独自に企画立案し、富士通のブランドで商品化するケースも増えている。単純な請け負い開発では、中国やインドなどオフショア開発とのコスト競争に勝てない。自らマーケティングを行い、開発投資を負担するなどのリスクを負ってでも、「オリジナルの商材をつくることで競争力を高める」(松岡貫社長)戦略だ。

 技術者の育成にも力を入れており、データベースの技術資格で難関の「オラクルマスタープラチナ」の取得者数は34人に達し、全国でもトップクラスになった。経営とITの橋渡し役を担うITコーディネータの資格取得者数も40人と、北陸地区のSIerのなかで最も多いクラスに入る。こうした得意技を生かしたビジネスも順調に拡大しており、「富士通グループで高度なオラクルデータベース関連の仕事を受注したときは、自ずとオファーがくる」ようになった。ミドルウェアの開発と併せて付加価値が高く、ソフト開発ビジネスの利益率を押し上げる原動力になっている。

 北陸地区における有力SIerがビジネスを伸ばせば、周辺の協力会社にも少なからず仕事が落ちる。最初は下請けでも、技術を蓄積していくベンダーも少なくない。自らの得意技を生かして首都圏などから直接仕事を獲得する道も開けてくる。インテックグループは今年4月、大手SIerのTISと経営統合した後も、引き続き本社を富山に置くことを決めており、ソフトウェアファクトリー化がより勢いを増す見込みだ。“IT街道”と呼ぶにふさわしいIT分野の高度集積が急ピッチで進む。
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