2010年2月にNECとNECネクサが用意したSaaSサービスは、基幹系アプリサービス「EXPLANNER for SaaS」を含む合計15種類。10年9月末までには合計50種類にまで増やす計画で、主にフロント系アプリを追加する。揃えたサービスはすべてSMBの利用を意識した設計・機能となっており、拡販対象はそうしたSMBと明確に定めている。
ここで用意したSaaSサービスの販売は、三つの方法を取る。(1)NECは直販(2)NECネクサも直販、そして(3)NECグループの販売店約370社およびNECネクサの販売パートナーによる販売──。中期目標は、12年度(13年3月期)末までにNECの直販で2万5300社、NECネクサの直販で2000社、パートナーによる販売で8000社とした。NECグループとパートナーとの協業によって、約2年半の期間で3万5300社のSMBにSaaSサービスを販売するという算段だ。NECネクサが攻めるのは、東名阪地域の年商100億~500億円規模の中堅企業で、パートナーに販売を任せたいのは、全国年商100億円未満の中小企業としている。
パートナー経由の販売で、12年度末までの獲得目標ユーザー数約8000社のうち、今年度はまず600社を目指す。5月からNECネクサが主導して、パートナー企業に対してサービスメニューの案内を順次開始。パートナーのITサービスメニューに組み込んで販売してもらえるように交渉を始めている。
販社との協業を促進するために、組織体制も増強した。NECネクサは、8本部あるうちの一つとして、4月1日付で「パートナービジネス営業事業本部」を組織した。人員は80人。パートナービジネスの組織として、本部を立ち上げたのはNECネクサにとって今回が初めてだ。また、NECも同機能の組織を120人体制でつくっており、ハイブリッドでパートナーに提案する。協業のメニューを体系立てたプランもつくり、見込み客の紹介や販売支援ツールの提供などの支援メニューも整えた。
NECネクサの森川社長は、「従来のSIビジネスに代わってSaaSを売るというより、“SI+SaaS”というビジネスを提案している。SIでは獲得できなかったユーザーをSaaSで獲得し、その後にSIにつなげるというストーリーには、パートナーの関心も高い」と好感触を得ている。
コンピュータの販売で国内で最も強固な販売網をもつNECが、NECネクサを舵取り役にして、SaaSビジネスでも販社を有効活用し始めた。NECの販売店約370社をどこまでその気にさせられるかがポイントだろう。
【関連記事】NECネクサの構造改革
「東名阪集中」で浮き彫りになった強化点
今回のSaaSサービスの間接販売網づくりは、昨夏にNECグループが発表したSMB事業拡大戦略の一つとしてスタートしている。NECネクサは昨年10月1日から、東京・名古屋・大阪地域のSMBに営業を集中する体制を敷いている。対象顧客2万2000社・団体を徹底的に攻めている最中だ。SaaSの販売網づくりと同様に、その攻略の経緯が順調かどうかが注目点だ。森川年一社長へのインタビューでも、当然ながらその点を尋ねた。しかし、記者が取材を終えて印象に残ったのは、そのこととは違った。東名阪“以外”のSMBビジネス拡大である。森川社長は、東名阪以外の地方SMB市場の攻略を、NECグループとしてどう推進するべきかについても考え始めている。
NECネクサは、4月1日付で「中堅事業戦略室」という新部門を設立している。この部門は、NECグループ全体のSMB事業拡大計画を考案する組織だ。社長直属の部門にして、室長には森川社長が就任。森川社長はNECの執行役員2人に参加を要請し、メンバーに加えている。
昨夏の発表後、「NECは、東名阪以外のSMBに対するアプローチが手薄になるのではないか」という話題が持ち上がった。東名阪以外のSMBは、基本的にNECが抱える各地域の支社・支店を活用して担当することになっている。この方針について、あるNEC子会社の幹部は、「NEC本体が地方の小さな企業向けビジネスを本気で手がけるわけがない」と漏らす。森川社長には直接尋ねなかったが、約半年間、新体制で動いてきて、地方のSMB開拓、そのための戦略立案の必要性を森川社長は実感しているに違いない。だからこそ、中堅事業戦略室を設置したのだろう。ただ、この取り組み、本来であればNECが主導するべきもののように思えてならない。NECグループのSMB事業拡大に必要な組織再編はまだ終わっていないという気がする。(木村剛士)