埼玉県を主な商圏として、建築や土木事業を展開する松永建設。介護福祉サービスなどを展開する4社とグループを形成し、「松永グループ」として地元では名の知れた企業だ。ただ、情報システムの戦略立案・運用担当者はわずか一人で、しかも他業務との兼務。担当者は、各従業員から寄せられるPC関連のトラブル対応業務に頭を痛めていた。その悩みを解決するため、担当者は初めて運用管理ツールの導入を決める。選んだのは、マイクロソフトの「Microsoft System Center Essentials 2007」。効果はすぐに現れ、運用コスト半減を果たした。そのプロセスを振り返る。(木村剛士●取材/文)
大手SIerに断られ、PC販社に救いを求める
トラブル対策で年間500万円  |
| 松永建設の須釜洋年・購買部課長。情報システムを管理しながら購買も手がけ、ISO関連業務も担当するマルチプレーヤー |
松永グループは、建築・土木の松永建設を中心に、不動産事業の松永都市開発、介護福祉サービスのうらら岩槻など合計5社で形成されている。連結従業員は200人で、拠点は松永建設だけでも本社を含めて5か所ある。従業員は各拠点、グループ企業に分かれており、施工現場にも散らばっている。各従業員がもつPCも、その分だけ複数の場所にあるわけだ。松永建設の須釜洋年・購買部課長は、グループ全体で約200台のPCをたった一人、しかも兼務で手がけていた。須釜課長の負担の重さは容易に想像できる。
須釜課長のPC管理業務は大きく分けて三つある。(1)PCの不具合や操作方法など各従業員から寄せられる問い合わせの対応(2)ソフトウェアの配布(3)インストールされているソフトやスペックなども含めたPCの資産管理──がそれだ。これらを兼務状態の一人が対応するのは現実的に不可能で、須釜課長はそのつど、ITベンダーに1件1万円弱の価格で業務委託していた。そのコストは年間平均500万円にも及んでいた。コストだけでなく、「発注書の作成や作業完了の確認などの手間が発生しており、業務委託しても、それなりの時間を食われていた」(須釜課長)。
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| 国際産業技術の田口聖・第一営業部上級主任Chiefエンジニア。今回初めて「System Center Essentials」の導入作業に携わった |
また、毎日発生する作業ではないが、重荷になっていたのがPCの資産管理業務。各拠点や現場に点在するPC資産を、須釜課長は一つひとつ確認しに出向き、それを「Excel」に入力して更新・管理していた。これらの負担を軽減するために、ツールの導入を決めることとなった。
須釜課長は、運用管理ツールを導入した経験がなかったため、まずウェブサイトやセミナーへの参加で情報収集することから始めた。その結果、選んだのがマイクロソフトの「Microsoft System Center Essentials 2007」だった。その経緯と理由を須釜課長はこう語っている。「マイクロソフトがもつ三つの運用ソリューションと、エムオーテックスおよびクオリティの5製品を選考の対象にした。価格と保守費用、サポートサービスに重点を置いて比較検討した結果、マイクロソフトに決めた」。また、通常運用管理ツールには、新たなエージェントソフトを導入する必要があり、パフォーマンスが落ちるケースがある。松永グループには、古いPCもまだ稼働しているケースも少なくない。「Microsoft System Center Essentials 2007」は、Windows Updateのエージェントプログラムを使用するためのパフォーマンスが低下する心配がない。そのことも決め手になった。

埼玉県さいたま市岩槻区の松永建設本社屋。地元では名の知れた老舗建設会社で、土木工事などにも強い
PC販社がツールを導入 導入する製品を決め、これまでIT製品の購入やシステム導入でつき合いのある複数のITベンダーに導入を依頼する。しかし、「そのすべてに断られてしまった」(須釜課長)。「統合運用管理ツールは全社的なシステムになるので、もし不具合があった場合のトラブル対応が面倒と思ったのだろう。断ってきた先のなかには、全国規模でITサービスを手がける大手SIerもいる」と須釜課長は振り返る。困った末、システムやソフトウェアの導入ではなく、PCの購入でつき合いのあった国際産業技術(KSG)の田口聖・第一営業部上級主任Chiefエンジニアに依頼することとなった。
田口・上級主任Chiefエンジニアは、「運用管理ツールの導入は、クオリティ製品など、他社製品では導入実績があったものの、『Microsoft System Center Essentials 2007』は扱ったことがなかった。不安もあったが、チャレンジしようと思った」と話す。トラブルが発生した場合の対処方法などの情報が、マイクロソフトのウェブサイトなどで不足していたことが、不安を煽ったというが、ウィザードで決められた手順通りに行ったところ、その不安とは裏腹に、導入は「拍子抜けするほど簡単だった」(田口上級主任Chiefエンジニア)という。
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| マイクロソフトの長谷川裕昭・エグゼクティブプロダクトマネージャー。須釜課長の高い評価に「大変ありがたい事例」と感謝の念を表した |
2009年末に運用を開始。須釜課長はその効果についてこう話す。「トラブル対策は、リモート操作でほぼ解決できるようになった。また、導入してみて気づいたことだが、ソフトの自動配布機能や資産管理機能は大変便利で驚いた」と満足している。
今回の導入費用は総額約250万円。PC運用に関連する外注費は年間約500万円だったことから、1年目ですでにコストの半減に成功したわけだ。須釜課長は、「この業務効率の成果かどうかは分からないが、兼務する仕事がまた一つ増えた」と、苦笑いする。
マイクロソフトの長谷川裕昭・サーバープラットフォームビジネス本部Windows Server製品部エグゼクティブプロダクトマネージャーは、「『Microsoft System Center Essentials 2007』の特徴をうまく生かした大変すぐれた事例」と評価している。
今後は新版の「同 2010」へのバージョンアップを予定しており、その導入もKSGが担当する。ユーザー、販社ともに初めて導入したツールだったが、トラブルなくスムーズにプロジェクトを進行させ、効果をすぐに引き出す事例となった。マイクロソフトにとっては、長谷川エグゼクティブマネージャーが言うとおり、好材料となったはずだ。
事例のポイント
・保守サポートと価格が決め手に
・大手SIerがダメでも、救いの道を探す
・外注費削減で、運用コストを半減