NTTコムウェア(杉本迪雄社長)は、2009年、新入社員教育の一環として実施しているメンタリング制度を刷新。配属先の部署全体で新人を育てる「ファミリー制」を実施するほか、メンターの普段の活動における情報共有などを行うための横のつながり「メンターグループ」の設定により、新人社員の業務面・心理面でのバックアップ体制をより高めていく取り組みを行っている。
制度マンネリ化で課題が浮上 NTTコムウェアは、2002年から新人社員教育の一環として、本格的に、先輩社員(メンター)が新人社員(トレーニー)を教育するメンタリング制度を実施している。同社では、1997年のNTTコムウェア発足前後からこの形態による教育体制をとっている。これまで部署の課長がコーディネータとしてOJT計画を立案し、SP(スペシャリスト)、主査といった係長クラスの中堅社員がメンターの役割を担っていた。ところが、長年実施するうちに、制度自体がマンネリ化してきてしまった。忙しい職場ではメンター自身が自分の時間を確保することが難しく、新人の指導がおざなりになって、トレーニーからの不満が出たり、また、プロジェクト制をとっているため、部署異動でメンターが交代することも多いなど、さまざまな課題が出てきた。さらに09年度は前年の倍に当たる240人が入社したことから、これまで以上にメンターの人材が多く必要になっていた。
制度見直しで組織全体で新人育成 NTTコムウェアでは、この状況を受けて、09年にメンタリング制度見直しを行い、トレーニーを孤独にさせない制度の構築に取り組んだ。刷新したプログラムでは、指導する階層を下げ、SP・主査がコーディネータとしてOJT計画を実施。より年齢の近い若手一般社員がメンターとしてトレーニーの生活を支援する体制を整えた。これまでのようにメンターが年の離れた上司では、「気軽に声をかけられない」雰囲気があったからだ。
メンターはトレーニーにとって、キャリア、業務や生活での「見本」になり、マン・ツー・マンで接する良き助言者となる。だが、メンタリング制度では、他の従業員が指導担当に遠慮して新人に対して指摘したいことが言えなくなったり、「われ関せず」という社員も多く、メンターの負担が大きかった。
そこで、メンター以外の社員も巻き込んで、組織全体で新入社員を育てていく「ファミリー制」を推奨している。メンターは、部署の課長を「祖父」、コーディネーターである主査・SPを「父」、そしてメンター自身を「母」、部署の同僚を「兄弟・姉妹」といった具合に「ファミリー」と見立てて、協力を要請することができる。さらに他部署の同僚、先輩社員を「従兄弟(エルダー)」として設定することもできる。
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総務人事部 HCMセンタ 三尾和幸担当課長 |
総務人事部 HCMセンタ 三尾和幸担当課長は、「ファミリー制は任意であり、精神論的なものだが、メンターが紙に書き込んで役割分担を可視化することで、ほかの社員にも意識づけし、積極的に新人の生活から相談にのったり、別部署の同僚をエルダーにすることで、違う考え方も学ぶことができるようにした」と話す。
また、人事部で設定した3~6人ほどのメンター同士で構成する「メンターグループ」により、相互のモチベーションや指導レベルの維持・向上を図っている。グループではメーリングリストを利用して、相互に相談ごとや、トレーニーを交えての情報交換イベントなどを実施し、互いに刺激しあう仕組みをつくった。グループリーダーは週に1回、メンバーにメールを送り、各自が設定している最低限実行するべき三つの約束(三つのDoing)の実行を促したり、月次の活動報告書を取りまとめ、提出する役割を担う。メンター同士が新人のエルダーになることもでき、相互にトレーニー育成を支援することができる。
ノウハウの伝承でメンター育成 これらの活動を展開していき、09年度の新入社員を対象にしてメンタリング教育に対する満足度を測ったところ、「良かった」と回答した社員が08年は7割強程度だったのが、9割以上に上昇した。とくにメンターの年齢が若くなったことで新入社員から「年が近く、同性だったので気兼ねなく相談ができた」と好評だった。
今後の課題は、メンター同士のノウハウや事例の伝承を強化することだ。これまでメンターは、メンターを開始した年度ごとに分かれて年1回研修を行っていた。今年は、2年目のメンターが1年目に経験してきたことを活動レポートとして新しいメンターに配布するだけでなく、2年目のメンターのフォロー研修と、新しいメンターの研修を同時に行い、直接先輩メンターが苦労話を語ったり、指導・相談できる環境をつくる。
メンターを育てるサイクルを連続させることで、よりうまくノウハウの伝承を行っていく計画だという。三尾担当課長は「メンターは一般的に新人にとって『見本』となる役割を担っているが、若手社員はまだ『見本』の域には達していない。メンター、トレーニーの両方が学ぶ側として、育てる体制をつくりたい」と、次なる体制の方針を語っている。(鍋島蓉子)