コンピュータソフトウェア協会(CSAJ、和田成史会長)が、パッケージソフトの品質評価・認証制度の新設に動いていることが明らかになった。CSAJが独自にソフトの品質基準を作成し、各パッケージソフトを評価。基準を満たすソフトを認証する。信頼性のあるソフトには“お墨付き”を与えるというわけだ。韓国にはすでに同様の評価・認証制度があり、2008年末段階で累計942製品が認証され、同国では存在感を示している。CSAJは、韓国の関連団体と連携を図り、それを模範にして作成する計画。6月から品質基準と運営体制づくり、そして関係省庁への協力要請を始めた。実現すれば、パッケージソフトの品質を第三者が評価・認証する国内初の制度になる。今年度内に作成する計画だ。
CSAJが実現に向けて動き始めた新制度は、第三者機関がパッケージソフトの品質を独自基準で評価し、基準を満たした製品には認証を与えるというもの。各ソフトメーカーから製品ごとに受け付け、第三者機関が審査する仕組みだ。実現すれば、ユーザー企業は、認証の有無で製品の信頼性を判断できる。一方、メーカーにとっては、品質の高さを証明できるわけで、売り上げ増加に結びつきやすくなる。ソフト販社にとっても商材選びの指標になる。
「ソフトの品質を客観的な視点で見定める指標が国内にはない」ことを問題視したCSAJの藤井洋一・常任理事が中心になって企画した。同団体内に「パッケージソフトウェア品質基準研究会」を発足させ、2010年6月から本格的に活動を開始。まずは藤井常任理事が社長を務める日本ナレッジなど、4社のCSAJ会員企業で議論をスタートさせた。
「品質基準の作成」と「評価・認証制度推進方法・体制の確立」に向けてすでに動き始めている。品質基準の作成は、ソフトウェア品質評価の国際規格「ISO/IEC 9126」や、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)がまとめた「非機能要求仕様定義ガイドライン」など、関連する資料を参考にする。
一方、評価・認証制度の体系化では、韓国の「Good Software(GS)認証」を模範にするつもりだ。「GS認証」は01年に韓国政府が発足させたパッケージソフトの評価・認証制度で、CSAJが目指す仕組みと酷似する。審査費用を国が負担するほか、「GS認証」がない場合、公共機関の入札案件に参加できないなど、政府が「GS認証」の取得を促しているため、普及が進んでいる(図参照)。
藤井常任理事は、「非常に理想的な取り組み」と評価し、「GS認証」の運用を取り入れる考え。貿易振興や外資企業の誘致を手がける韓国政府機関である大韓貿易投資振興公社(KOTRA)や、「GS認証」制度発足に貢献した韓国IT企業のUNION&ECなどとの連携体制をすでに構築している。
CSAJは、「GS認証」をモデルとして関係企業・団体と連携を図ることで、評価・認証制度をスムーズに立ちあげるとともに、「GS認証」との“連携”も視野に入れている。「日本で新制度の認証を取得すれば、『GS認証』を取得したのと同等のメリットがあるようにしたい。そうすれば、日本、韓国それぞれのソフトメーカーが互いの国に進出しやすいようになる」(藤井常任理事)という考えだ。
その一方で、「韓国のように、認証を取得することのメリットをソフトメーカーに与えないと、普及はおぼつかない」(同)と考えており、他のIT関連団体や経済産業省などと交渉し、普及・啓蒙施策を立案・実行する施策も同時に進める。
パッケージソフトに絞った品質の評価・認証制度は国内には皆無。それだけに、実現して「GS認証」のような存在感を示すことができれば、ソフトメーカーに大きなインパクトを与える。
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中小ソフトメーカーの存在感を示す
コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)が、パッケージソフトの品質評価・認証制度を新設する目的は、中小ソフトメーカーが、国内や海外での存在感を増すようにすることにある。
今回の新制度実現に向けて力を尽くしている藤井洋一・常任理事(=日本ナレッジ社長)は、「たとえ品質が良くても、それを客観的に示す指標がないのは、中小のソフトメーカーにとって不幸なこと。ユーザーはブランドや知名度で製品を選ぶしかなくなり、結果的に、大手製品を購入する。それではいくら高品質のソフトを作ったとしても、中小ソフトメーカーの製品は選ばれず、ビジネスが拡大しない」と熱く語っている。
CSAJの会員企業の大半は中小企業。だからこそ、「CSAJとしてこの新制度を立ち上げなければならない」と、藤井常任理事は考えているのだ。韓国では、「GS認証」の制度を立ち上げたことで、「多くの中小ソフトメーカーが育っている」(藤井常任理事)という。
新制度が成功するためのカギは、藤井常任理事が指摘するように、基準や評価・認証制度の運営ではなく、取得することのメリットをソフトメーカーに与えることができるかどうかにある。“お墨付き”があることの“目に見えないPR効果”だけではなかなか難しい。したがって、政府、官庁の力が必要不可欠となる。韓国には、公共機関で活用するソフトに、「GS認証」を義務付けたり、融資を受けやすくしたりする制度がある。その優遇措置が、毎年右肩上がりで認証製品が増加している事実を間違いなく下支えしている。
中小規模ITベンダーの育成は、経済産業省や中小企業庁など関係省庁の至上命題のはず。民主党政権の誕生、事業仕分け、首相交代と波乱続きの現状だが、飽和感漂う国内市場のソフト産業を活性化し、世界に進出しやすい環境をつくるために、新制度の普及は必要なことのように思う。(木村剛士)