【上海発】中国のIT業界で人材の争奪戦が激しくなってきた。システム案件が増えていることが要因で、中国と日系の大手SIerともに他社から優秀な人材をヘッドハンティングする動きが進みつつあるという。とくに、中堅SIerが人材引き抜きの標的になっているようだ。そんななか、PFUの中国子会社で中堅SIerに位置づけられるPFU上海計算機(天井豊董事長)は、生き残り策として、地道な活動を展開している。

PFU上海のオフィスがある桂平路は、日系のITベンダーが集まる地域として知られている
 |
| 「技術者の質を高めなければならない」と語る坂口修一・董事副総経理 |
リーマン・ショックの影響で世界市場が大不況に陥った2009年以降、成長著しい中国を有力市場と捉える企業が多くなってきている。そのため、中国と日系のSIer、ともに案件が増える傾向にある。PFU上海も、「日本ではシステム案件の受注が厳しいとの話を聞いたが、上海の当社は案件獲得が堅調に推移している」(坂口修一・董事副総経理)という。同社は、親会社であるPFUのオフショア開発拠点といった位置づけで、日本からの案件が大半を占めている。売上比率は日本を中心に海外が7割以上。2009年度(09年12月期)に関しては、「人件費が安いということで、当社への発注が多かった」というのが実情。世界同時不況にもかかわらず昨年度の業績が落ち込まなかったことについて、「日本市場は徐々に回復しているものの、まだまだ先行きは不透明。今年度も中国へのオフショア開発が加速するのではないか」と、坂口董事副総経理は分析する。同社では売上高として「08年度を超える」と、世界不況前よりも伸びることを見込む。
このような状況は、PFU上海だけに限ったことではなく、中国でビジネスを手がけるSIerの多くが経験しているようだ。しかも、案件増に伴って中国市場では質の高いソフト開発を目指す方向に動きつつある。そのため、大手SIerを中心に優秀な人材を確保することに奔走し始めている。
坂口董事副総経理は、「ここにきて激しくなっているのが人材の流動」と、中国市場におけるソフト開発業界の事情を説明する。優秀な人材を引き抜くために最低でも1.5~2.0倍の給与を支払うといったヘッドハンティングが積極的に行われている。
同社は、ヘッドハンティングの動きを警戒しつつ、「当社は新卒をメインに採用している。学生に当社がソフト開発で優れた企業であるということを認めてもらえるかどうかがポイント」と考えている。CMMを上海で6社目に取得したという早くから品質面を追求してきたことを生かし、優秀な人材を一から育て上げることを“売り”に新卒採用に取り組んでいる。こうした地道な活動により、今年度(2010年12月期)は12人を新規採用した。コスト面に加えて熾烈な人材争奪戦が繰り広げられるようになった中国市場で、「人材教育」という自社の強みを改めて生かすことで地位を確保しようとする姿がみてとれる。(佐相彰彦)