総務省が中心となって進めている「自治体クラウド」が盛り上がりをみせている。自治体も前向きに自治体クラウドを意識しているところが多い。だが、条例に縛られて、クラウドへの移行を躊躇する自治体もあるようだ。
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日立製作所 自治体クラウド推進センタ 前田みゆき副センタ長 |
「自治体クラウド」は、前の自民党政権時に策定された「i-Japan戦略2015」で注目され、現政権の原口一博総務大臣の名を冠した成長戦略「原口ビジョンII」にも施策の一つとして組み込まれている。総務省では自治体クラウド推進本部を設置、全省的な取り組みとして推進していくほか、法制化の動きもみせるなど、非常に力を入れている。
自治体は、これまで庁内のシステムを個別に導入して運用していたため、ITコストが高止まりしている。財政難のなかで、ITコストを削りたいという意向があるものの、手作業で業務を回すのには限界があり、子ども手当の新設など頻繁に生じる新制度対応へのシステム投資が不可欠になっている。
財政上の問題については、ITシステムの進化が解決の道筋を示している。ネットワークの大容量化・高速化や仮想化技術の進展によって、使いたい時に使いたいだけ、ネットワークを経由して安価にシステムを利用できる形態「クラウド・コンピューティング」の台頭を受けて、自治体のシステムの共同利用が進むとみられている。
しかし、自治体にクラウド化を躊躇させる障害がある。それは「条例」だ。日立製作所の自治体クラウド推進センタの前田みゆき副センタ長は「クラウドにおけるセキュリティに対する懸念というのは説明すれば納得してもらえる。だが、条例に縛られてクラウド化を躊躇する自治体が、一部にある」と実情を話す。
策定されてから期間が経過した条例に「個人情報を庁内から持ち出さない」と記されているとしたら、たいていの自治体は、時代にマッチするように条例を変える。一方で「条例に書いてあるから」と頑なに条例の変更を拒むところもあるのだという。
また、システムを共同利用するためには、複数の自治体で業務の標準化を行わなければならない。そのためには、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)が必要とされる。例えば条例にこの帳票は「B5判」というようにサイズが明記されていたり、この書類は氏名を「カタカナ」で、あの書類は「ひらがな」で書かなければならないと決まっていたとすると、自分たちの業務を変えなくてはならないため、足踏みしてしまうのだという。
日立製作所の前田副センタ長はITベンダーの立場から、「クラウドを実現するために現存のルールは変えていかなければならない。クラウド推進本部という組織も立ち上がったし、国から自治体に働きかけてほしい」と要望している。(鍋島蓉子)