【香港発】英ブリティッシュ・テレコム(BT、イアン・リビングストンCEO)は、9月9~10日、日本や韓国、インド、オーストラリアなどアジア・パシフィック地域の諸国からメディアやアナリストを招き、同地域での事業戦略を披露する「BT アジア・パシフィック メディア&アナリストイベント」を香港で開催した。同社は、2007年7月に組織を大きく再編成したのを皮切りに、従来型の通信事業者から、多国籍企業を相手にしたITサービスプロバイダへと変貌している。好景気に沸く中国やインドをはじめ、アジア市場は同社にとってどんな位置づけになるのか。イベントの様子を香港で取材した。
メディアやアナリストに地域戦略を披露
人員増強で営業力を向上  |
| ケビン・テイラー氏 |
イベントの冒頭に、BTグローバル・サービス アジア・パシフィック地域 マネジング・ディレクターのケビン・テイラー氏は「アジアでは、急速な経済成長とともに、アジアからグローバルへビジネス展開している多国籍企業が大幅に増加中だ。アジアは速いスピードで世界経済のリーダーになろうとしている。そのため、われわれは最優先でこの市場への投資を拡大する」と、地域戦略の背景を語った。
同社は、アジアを拠点とする多国籍企業が世界で柔軟に活躍できるよう新しいネットワーク構築を必要とするとみており、顧客企業の開拓を狙って動きを本格化させている。具体的には、地域戦略の投資プランを立案し、その第一弾として、アジア・パシフィックでの人員体制を強化する。向こう1年間、日本や中国、香港、オーストラリア、インド、シンガポールなどの主要市場で、約300人のスタッフを新たに採用し、現地での営業力を向上させる方針。現在、同社がアジア・パシフィック地域で抱える約5000人の正社員の数からすれば、およそ6%の増強だ。
人員体制の強化と同時に、提供するサービスメニューの拡充も急ぐ。メニューの中核としてCRMやセキュリティを据えるほか、電話やビデオ会議用のツールを統合したユニファイド・コミュニケーションなどを積極的に展開していく。「ユニファイド・コミュニケーションは、ハードウェアにかかる費用が少額で済むというメリットがあるので、ヨーロッパでは非常に盛り上がっている。これから、ユニファイド・コミュニケーションの技術をアジアへ横展開し、顧客の新規開拓に注力する」(BTアジア・パシフィック地域 ビジネス・オペレーション バイス・プレジデント兼BTグローバルサービス BT中国社長のトッド・ハンコック氏)という。
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| トッド・ハンコック氏 |
アジア・パシフィック地域のなかでも同社が重点的に攻略していくのが、インドと中国の市場だ。中国本土でBTの業務を統括しているハンコック氏は「中国では、現在の主要顧客である欧米や日本の外資系企業だけでなく、グローバル展開に力を注ぐ中国企業の獲得に取りかかっている。それらへのアプローチを強化するために、営業人材への投資を拡大していく」としている。すでに顧客としてもっている中国の地場企業として、家電メーカーのハイアールや航空会社の中国国際航空を挙げている。
また、日本でも事業の拡大を目指しており、販売パートナーとの連携を強化していくという。「日本は当社にとって重要な市場で、継続して投資をしていく方針だ。今後、KDDIやITホールディングスなど、現地パートナーとの関係を深め、ビジネスを拡大していく」(ハンコック氏)としている。
“スマート”な都市をアジアへ 同社は、環境に配慮した「グリーンIT」に基づく“スマート”なサービスやソリューションを長期的な事業戦略の重要な柱としている。2012年に開催されるロンドン・オリンピックに向け、持続性をキーワードにした包括的なIT環境の構築に取り組んでいる。香港のイベントで、ロンドン・オリンピックに向けた計画の概要を説明した。
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| ラリー・ストーン氏 |
アジアでも、「グリーンIT」への関心が高まっている。例えば中国では、IBMが「Smarter Cities(スマーター・シティーズ)」のコンセプトを軸に公共案件の受注に向けた活動を活発化させるなど、“スマート市場”の開拓に向け、外資系企業が動き出している。BTは「グリーンIT」をアジアへ横展開する計画について、具体的なコメントはしていないが、香港のイベントでロンドン・オリンピックの取り組みを紹介するなどの施策から、アジア市場でのポテンシャルを意識していることが読み取れる。
BTグループ グループ パブリック&ガバメント・アフェア プレジデントのラリー・ストーン氏は「ロンドン・オリンピックを絶好の機会として、当社のスマートなITサービスを世界に披露したい。当然ながら、2012年以降のことも考えている」と、間接的に横展開をほのめかしている。BTが今後、中国やインドを中心としたアジア市場でどういう動きに出るか、興味深いところである。(ゼンフ ミシャ)

会場には、アジア・パシフィック地域の諸国からメディアやアナリストが集まった