国内最大手のイラスト投稿サイトを運営するピクシブ(片桐孝憲社長)は、増え続けるユーザーに対応するため、データセンター(DC)事業者でヤフーグループのIDCフロンティア(IDCF、真藤豊社長)のインフラ活用を決めた。ピクシブは自社内で運営するDCの拡張先として、IDCFの東京・新宿御苑前にあるDC設備を選定。これまで自前でのシステム構築を重視してきたピクシブが、ITベンダーの力を借りる決断を下した背景には何があったのか。両社のキーパーソンに取材した。
ユーザー企業:ピクシブ
国内最大手のイラスト投稿サイト「pixiv」を柱としたイラストコミュニケーションサービスを提供する。直近のユーザー数は200万人を超え、イラストの総投稿数は1100万枚、月間15億ページビューに到達した。
システム開発会社:IDCフロンティア
サービス名:データセンターサービス
pixivの外部データセンター(IDCフロンティア)活用の概要
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IDCフロンティア 粟田和宏 ビジネス開発本部 サービス企画部長 |
ピクシブが運営するイラスト投稿サイトの「pixiv」は、国内で最も成功したクリエイティブ系CGM(コンシューマ生成メディア)サービスの一つである。pixivの基本サービスは無料で提供していることもあり、システム関連のコスト低減は至上命題。同社ではサービス開始当初から自社での技術習得を心がけ、常に最も効率がよく、コスト削減効果が大きいシステム構築に取り組んできた。
ところが今年の春先、ある問題が表面化した。ネットワークの帯域が十分に確保できず、夜間などのピーク時にpixivサイトの動作が遅くなり始めたのだ。ピクシブでは自社DCで最大約5Gbpsのネットワーク回線を契約しているが、帯域が固定されていないベストエフォート型だった。通信トラフィック量が国内上位30番に入るまでアクセスが増えているにもかかわらず、「通信会社に無理をいって、できるだけ多くの帯域を振り分けてもらうようお願いしてきた」(ピクシブで技術を担当する店本哲也氏)のが実状だった。回線を増やそうにも、一般オフィスビル内に設置してある自社DCでは、これ以上の拡張は物理的に難しい。そこで選択肢として浮上したのが、外部DC専業ベンダーの活用だ。
DC活用の選択肢としては、(1)DC内に自社のサーバーを置く場所だけ借りる=コロケーション方式、(2)DC事業者がもつサーバーを使わせてもらう=ホスティング方式、(3)Amazon EC2などパブリッククラウドを使う方式の三つが挙げられる。時代の潮流は(2)か(3)だが、ピクシブはあえて(1)のコロケーションを選んだ。そこで、東京・千駄ヶ谷の自社オフィスから「歩いて行ける範囲を探した」(ピクシブで技術を担当する飯田祐基氏)ところ、IDCFが新宿御苑前に開設している東京新宿DCが有力候補となった。まるでコンビニに行く感覚で通える距離である。
理由は、最新技術を自社内に保持するためだ。他社のシステムを使わないのは、「自社で世界最先端のクラウドを構築しているのに、なぜ他社を使うのか」(ピクシブの青木俊介取締役)という自負心があるから。IDCFは、ピクシブの要望を完全に受け入れる形で、「どんなサーバーでもご自由に持ち込んでください」(粟田和宏・ビジネス開発本部サービス企画部長)と提案したことが、採用の決め手になった。サーバーの設置場所と、ネットワーク帯域常時2Gbpsを保証し、かつピーク時対応として最大4Gbpsまで増やせるサービス契約を7月にIDCFと結んだ。
自社DCとIDCFのDCの2拠点体制で運営しても、今のユーザー数の伸びを考えると「年内でキャパシティいっぱいになる見込みだ」(店本氏)という。成長盛んな時期は、ITシステムの費用が右肩上がりで膨れあがる。これを技術革新によって抑え込めるかどうかが、ネット企業の競争力を決める。一方、受け入れる側のIDCFは、「顧客の技術が成熟し、安定してきたら当社のホスティングやクラウド方式のサービスに移行してもらうよう、サービスメニューの拡充を進める」(粟田部長)と“ステップ方式”で顧客を上位サービスへ誘導。こうした手法で、IDCFはDCビジネスを拡大していく考えだ。(安藤章司)

写真左からピクシブで技術を担当する飯田祐基氏、青木俊介取締役、店本哲也氏
3つのpoint
・自社で世界最先端のクラウド構築が可能な技術力を保持する
・技術者が“コンビニに行く”感覚でDCへ通える近距離を重視
・場所貸しからホスティング→クラウドへステップ式で受け入れ