鹿児島県奄美大島で新聞社やケーブルテレビ、リゾートホテルなどを経営する複合企業の奄美メディアステーションホールディングス(常田圭一社長)は、初期費用無料のSaaSアプリ「Knowledge Suite」を導入した。ITを活用した情報共有が行われていなかった状況を打破するため、グループウェアの導入を検討。選んだのは、最大手でも豊富な実績がある外資系企業でもない、設立5年にも満たないITベンチャーの製品だった。
ユーザー企業:奄美メディアステーションホールディングス
鹿児島県・奄美大島で観光および不動産業ほか、総合マルチメディア業を展開する。グループ会社には、リゾートホテル経営や不動産管理・販売会社のほか、メディア業として新聞社やケーブルテレビ事業者も抱える。
サービス提供会社:ブランドダイアログ
プロダクト名:SaaS型業務アプリケーション「Knowledge Suite」
「Knowledge Suite」を利用してグループ連携が加速した
「ITの孤島を解消したい」との熱い思い
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| ブランドダイアログの飯岡晃樹取締役。富士通やウェブ制作会社などを経て今年から現職に就いた |
鹿児島県に属し、奄美市ほか4町村で構成する人口4万6000人ほどの小さな島、奄美大島。10月上旬、記録的な豪雨の災害に遭い、多大な被害に見舞われたことは記憶に新しい。観光地としてその名を知っている人は多いだろうが、華やかなイメージとは裏腹に、「さまざまな意味で情報の活用が遅れている地域」と、常田圭一社長は実情を説明する。
「本土からの情報が入りにくく、台風が直撃した時に、やっとその具体的な気象情報が届くような状態。地上デジタル放送の整備も遅い。別の観点からみれば、いまだにFAXや電話が仕事の主要インフラになっており、ITのリテラシーが低い」(常田社長)。そんな環境を変えようと、住民への情報発信のために新聞社やケーブルテレビを経営し、人を呼び込もうと観光事業を開始した。「奄美への貢献」を念頭に置いた結果、さまざまな事業を経営するようになったのが、奄美メディアステーションホールディングスだ。
同社が今年導入したITが、SaaS型業務アプリケーション「Knowledge Suite」である。2006年設立のブランドダイアログ(稲葉雄一社長兼CEO)が開発したアプリ群で、グループウェアやSFA(営業支援)、CRM(顧客情報管理)など六つのアプリをまとめたSaaSだ。すべてのサービスが初期費用無料、利用した機能の分だけ料金を支払う仕組みで、すぐれたASPやSaaSサービスを表彰する「ASP・SaaS・ICTアウトソーシングアワード 2010」(特定非営利活動法人ASP・SaaSインダストリ・コンソーシアム主催)で「ベストイノベーション賞」を受賞している。
グループ会社間の情報共有ができていないので、「誰が何をしているかが分からない状況」(常田社長)だった。常田社長は強く懸念し、グループウェアの導入の検討を開始。自ら15社ほどのグループウェアメーカーをピックアップした。そのなかの1社に、ブランドダイアログがあった。問い合わせを受けたブランドダイアログの担当者は、すぐさま奄美大島に飛び、直接面談して提案したという。
その熱意が常田社長の心を動かした理由の一つでもあるが、ラインアップにグループウェアだけではなく、CRMをもっていたことが決め手になった。「当然ながら、価格上のメリットもあった。ただ、グループウェアでの情報共有の次には、ユーザーとのコミュニケーション履歴を蓄積したいと考えていた」。その将来も具現化するサービスメニューをブランドダイアログがもっていたことが、「Knowledge Suite」を導入した最大の理由である。ブランドダイアログの飯岡晃樹・取締役ソリューション本部本部長は、こう語っている。「われわれのコンセプトは中小企業に適したアプリの提供。価格、機能ともにそれを最優先に考えている。今回の事例は、そうしたコンセプトが受け入れられた」。

奄美メディアステーションホールディングスの常田圭一社長。奄美大島生まれで、地域貢献に強い情熱を抱く
初期費用を可能な限り抑えて導入障壁を低くし、単体のアプリではなく豊富なメニューを揃えたことによるお得感。ITを利用しない(できない)中小企業に「まずは使ってみよう」と思わせた好事例だろう。「効果が出るのはこれから」というが、今でもブランドダイアログの担当者と常田社長の関係は続き、次の導入案件を真剣に議論している。(木村剛士)
3つのpoint
・初期費用が無料という導入障壁の低さ
・グループウェアだけでなくCRMもあったこと
・奄美大島まですぐに営業担当者が飛んできた点