主要コンピュータメーカーの系列システムインテグレータ(SIer)が、海外進出に本気になり始めた。日本のIT市場は中期的にみて成長が見込めない。その状況を鑑みて、海外市場に活路を見出そうとする流れが顕著になってきた。親会社(コンピュータメーカー)の強力なバックアップのもとにビジネスを展開してきたメーカー系SIerは、その後ろ盾がない独立系SIerに比べて、国内でのITビジネスが安定していた。それゆえに、海外へのチャレンジ意識が薄く、進出に消極的だった。だが、中期的事業戦略を立案するなかで、海外を無視できないと判断し、挑戦する意思を固めている。(木村剛士)
高い目標を掲げ、あえてチャレンジ
2010年10月1日に誕生した富士通マーケティング(FJM、旧・富士通ビジネスシステム)。国内中堅・中小企業(SMB)向けITビジネスを強化する方針と施策だけに焦点が当たりがちだが、同社の古川章社長は海外市場への進出を虎視眈々と狙っている。
「当社の顧客数は約4万社だが、そのうち約1400社がすでに中国へ進出している。社長就任直後にその事実を知って驚いた」と、苦笑いしながら話す。FJMの売上高約1380億円(09年度)のなかで、海外市場で稼いだものは、今はほとんどゼロに近い。見方を変えれば、それだけポテンシャルが大きいということになる。11月1日付で中国の上海市に子会社のFJBエージェントが現地法人を設立するなど、本気だ。「富士通の中国現地法人は、日系の大手企業向けビジネスで手いっぱい。当社は日系の中堅企業向けITサービスの提供に力を入れる」と自力で市場を開拓する。
かつて日本IBMの資本が入っていたことがあり、IBM製コンピュータの販売量でトップクラスの日本ビジネスコンピューター(JBCC)。親会社の純粋持株会社であるJBCCホールディングスの石黒和義会長も、海外進出に熱い情熱を注ぐ。同社の動きはFJMよりも早く、2年前の2008年11月。中国を中心に拠点を開設し、今では上海、大連、広州に拠点を構え、北京での開設も視野に入れている。中国以外ではタイのバンコクに連結子会社をつくった。
「ベトナムでも具体的な商談が始まっている」(石黒会長)と、東南アジアに強い関心も示しており、視野が広い。「中期的な成長を考えれば、海外市場でのビジネスは必須だ。若干強引であっても、トップダウンで海外進出を推し進める時期」と、たとえ短期的に結果が出なくても、ひるむそぶりはみせない。狙うは、2015年に海外市場で売上高150億円。売上高全体の15%を海外で稼ぐ計画を立てた。
NECグループの有力SIerで、同社のx86サーバーで国内販売台数トップのNECネクサソリューションズも今年度(2011年3月期)から中国進出に動き始めた。国内のユーザー企業で中国に進出している現地法人の情報システム構築・運用を、NECの中国現地法人と協力して獲得できるように図る。また、コンタクトセンター向け情報システムなど、日本で実績があって中国でも販売できる可能性をもつ自社ソリューションを、「中国市場に移植できないかとNECと相談している」(NECネクサの森川年一社長)。「中国の現地法人もサポートしてほしいという要望はこれまでも受けていたが、各部門に任せていて受動的だった。それを改め、全社一丸となって海外ビジネスを展開しようという方針を出した」と、森川社長は決意のほどを語る。
日立製作所系SIerでは、日立情報システムズだ。今年4月に中国市場への本格参入を発表。NIITテクノロジーズと協業して、タイでクラウドサービスを始めた。同年8月には、社長直轄組織の「グローバル事業統括本部」を設置しており、2012年度には700人の海外赴任経験者を育てるとぶち上げた(連結従業員は約7500人)。中期的目標として現在1%にも満たない海外売上高比率を2015年に35%まで引き上げる算段だ(09年度の全体売上高は1763億9000万円)。「高いハードルだということは承知のうえだが、チャレンジする」(同社広報)という姿勢だ。
メーカー系列SIerの4強といわれる4社。多少の時間差はあるものの、このタイミングでそれぞれ海外に出る意思を固めたわけだ。これは、「中期的な成長は国内では無理」という考えを抱いたことの現れとみられる。4社の足並みがこのタイミングで揃ったのは、決して偶然ではない。

JBCCホールディングスの石黒和義会長(上段中央)、富士通マーケティングの古川章社長(中段右)、NECネクサソリューションズの森川年一社長(中段左)、日立情報システムズの原巖社長(下段中央)
表層深層
言語も文化も商習慣も違う海外市場への進出を決断するには、国内で新たなビジネスを始めるよりも勇気が必要とされる。海外市場にチャレンジして挫折した企業は多い。その一方で、大成功を収めたSIerの話は聞かない。国内にはないさまざまな手続きが必要で、貨幣価値が違うとしても、それなりに大きなコストがかかる。さらに、成果を得るまでの時間も要する。
しかし、日本国内では急成長が見込めないのは明らかだ。日本の2009年のIT産業規模は前年比7.7%減の11兆8488億円で、08年~13年の年平均成長率は1.1%減。ともに民間IT調査会社のIDC Japanが示したデータだ。長期的にみて、日本のIT市場がいかに発展性に乏しいかが分かる。一方で、有望な海外マーケットの代表格である中国はというと、日本とは正反対の道が開かれているという。10年は前年比約20%で市場規模が拡大し、11年も同様の伸び率が見込めると、日本の情報サービス産業協会(JISA)にあたる中国ソフトウェア産業協会(CSIA)はいう。この数字の通りだとすれば、来年、日本は中国にIT産業規模で追い抜かれることになる。また、市場規模こそ1000億円に満たないものの、ベトナムも年率20%以上で成長している。東南アジアは、ブロードバンドの整備が急速に進んでおり、今後さまざまなITソリューションが伸びる地域といわれる。
中国を中心としたアジア市場への進出は、成長のためというよりも、生き残りに必要な手段なのかもしれない。