ハードとソフトに比べて成長率が高いといわれるITサービス。ユーザー企業・団体が、コンピュータを所有せずにシステムを利用する傾向が強まっていることで、今後のITビジネスはサービスが主流となる時代に突入するという見方が有力だ。果たして、ITサービスは長期的に伸び続け、ITベンダーの主軸事業に据えるべきと言い切れるのか。さまざまな角度から、ITサービス業界の今を俯瞰する。(文/木村剛士)
figure 1 「市場規模」を読む
プラスに転じるも慎重な見通し
国内ITサービスの2010年の市場規模は、09年比1.4%減の4兆9500億円。成長市場といわれているが、意外にも実績はマイナス成長で終わった。前年を下回ったのは、09年に引き続き2年連続となる。調査会社のIDC Japanは、この結果について「経済全体は最悪期を脱したとはいうものの、ユーザーのITサービスへの投資に対する姿勢は、依然慎重」と分析した。しかし、11年に入ってからは、伸びに転じ、今年は前年比1.5%増で市場規模は5兆236億円と、5兆円ラインを突破するとみている。また、長期的にもプラス成長は持続されると見通し、10年~15年までの年間平均成長率(CAGR)は2.3%と分析している。11年は金融機関向けのシステム統合需要が復活することで、ITサービスも伸びるほか、09年と10年の2年間でシステム開発案件を凍結してきたユーザー企業が、それを復活させることで伸びる。ただ、「ユーザーは少ない投資で従来以上に成果を求めている」こともあって、5%以上の高い成長は見込んでいない。
国内ITサービス市場の投資額予測
figure 2 「売上高シェア」を読む
メーカーの売上高は5割以上がサービス
国内・外資系を問わず、大手コンピュータメーカー5社の売上高を「ハード」「ソフト」「サービス」で分けたのが右図である。日本IBMを筆頭にコンピュータメーカー各社は、2000年代に入ってからクラウドに代表されるITサービスを強化している。そうした動きが売上構成比に現れており、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)以外の4社は、ITサービスの比率が50%を超えている。サーバーの販売が弱い日立製作所は80%弱、ITサービス事業の強化を他社に先んじて強化した日本IBMは約70%をITサービスで占めている。ハード事業は、製品単価の下落、サーバー統合や仮想技術の活用、クラウドコンピューティングの台頭が進むことで、縮小は確実とみられる。「ハード市場が縮小する現実を見据えた戦略が、従来以上に重要になってくる」(IDC Japanの福田馨・ITスペンディング シニアマーケットアナリスト)。そうなれば、ソフト・サービスに活路を見出すしかない。
主要ITベンダー5社の売上額構成比(2010年上半期)
figure 3 「有望ユーザー」を読む
製造業のIT投資獲得がカギ
主要なITサービス提供ベンダーが、どの業種をユーザーとしてITサービスを伸ばしたのかを示したのが右の図だ。リーマン・ショックの影響で、IT市場が最も冷え込んでいた2009年度の実績だけに、各社とも、ほとんどの業種向けでマイナス成長となった。ただ、ITベンダーによっては特定の業種で売り上げを伸ばしているケースもある。例えば、SI最大手のNTTデータと2番手の野村総合研究所(NRI)は、日立製作所やITホールディングスが苦戦した金融業向けITサービスを大きく伸ばした。また、金融業向けでは沈んだITホールディングスは、通信・メディア業向けで好調に推移。製造業向けが落ち込んだNECは、政府・公共機関向けでは成長している。図をみても分かるとおり、各社とも伸びている業種と低迷した業種にバラツキがみられる。とくに金融業向けビジネスでは顕著だ。ただ、製造業向けが国内ITサービス事業者トップ10に入っているすべての企業が、マイナス成長に落ち込んだことが共通点となっている。製造業は海外への進出や、凍結していたシステム開発が多い業種。09年度を底に、10年度以降は復活に転じたとみられる。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスやクラウドなどで、製造業を対象とした新規案件をどの程度獲得できるかがポイントになる。
主要ITベンダーの国内ITサービス市場の産業分野別売上額前年度比成長率
figure 4 「クラウド」を読む
SMBへの普及はまだ先
BPOやITアウトソーシングなど、複数あるITサービスのジャンルのなかで筆頭の成長株はクラウドだ。とくに中規模以下の企業への普及が進むとみられている。では、ユーザーの企業規模別でみた場合、クラウドはどのような成長路線をたどるのか。それを示したのが右の図だ。市場をけん引するのは大手企業で、中堅・中小企業(SMB)も伸びるものの、金額規模は大手と比較しても微々たるものとなっている。
SMBの市場調査に強いノークリサーチの岩上由高・シニアアナリストによれば、「中堅・中小企業の多くは既存の業務システムをクラウド化することで、コストを削減したいと考えている。だが、カスタマイズ開発やほかのシステムとの連携が施された基幹系業務システムをクラウド移行することは容易ではない。逆に、クラウド移行が簡単なグループウェアなどの情報系システムでは、(クラウド化の)コスト削減メリットは小さい。だから、中堅・中小企業はクラウド活用に慎重な姿勢をみせている」と分析している。従量課金、初期コスト低減がクラウドのメリットで、それを安直に考えてターゲットをSMBに絞って事業施策を考えても、ひと筋縄ではいかない。新たな付加価値を見出さなければ、SMBの開拓は容易ではないというわけだ。
クラウドサービスの市場規模推移