国内ITサービス市場が踊り場に差しかかっている。2009年と2010年の売上高は、前年比でいずれもマイナス成長。逆に、システム統合案件が増え、ハードウェアなどの製品販売が伸びた。ただ、製品販売がこのまま成長するとは考えにくく、主要SIerはクラウドなどのITアウトソーシングへとシフトし、何とか持ちこたえている。国内経済の悪化は企業のIT投資抑制を招き、大手を中心とした多くのSIerは、中国など海外へ市場を求め始めている。
figure 1 「市場全体」を読む
クラウドで“踊り場”も2010年以降は回復
調査会社IDC Japanがまとめた「国内ITサービス市場予測」によると、2010年は09年に引き続きマイナス成長に陥る見込みだ。具体的には、前年比1.3%減の4兆9563億円となり、リーマン・ショック以降の新規投資の延期や凍結、クラウドにシステムを移行すべきかという過渡期でIT投資が鈍った影響を受けた。まさに“踊り場”に差しかかっている市場といえる。ITサービスはハードウェアやソフトウェアの販売を除く「サービス」部分を指すが、現在に限っていえば、サービスを除く販売が伸びている状況。ただ、「システム統合案件が一段落すれば、投資はITサービスに向かうだろう」(某保守・サポートベンダー社長)と、楽観視するITベンダー経営者が多い。
IDC Japanの市場予測でも、2014年までの年間平均成長率は1.7%になると推測。ただ、現状ビジネスの延長だけではなく、「クラウドを使った新分野の開拓で、成長する余地はある」と富士通の山本正已社長が指摘する通り、クラウドを技術を使った新市場も出てくるだろう。
国内ITサービス市場投資額予測
figure 2 「サービス内容」を読む
データセンター専業者など“新顔”登場
ITサービスの国内売上高は、主に企業規模の大きな大手のシステムインテグレータ(SIer)やハードウェアメーカーなどで占められている。しかし、クラウドの需要が増すにつれ、データセンター専業者によるITサービスや、インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)によるパブリッククラウドの比重も徐々に高まってきている。ユーザー企業のIT投資が急激に落ち込み、ITシステムを「所有から利用」への転換が進んでいる。とくに、データセンター(DC)を利用したBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)やハウジング、クラウドなどが拡大する傾向にある。DCを所有しないITベンダーについては、DC専業者などから場所を借りて、ITアウトソーシングやプライベートクラウドの事業を展開する動きが目立ってきた。
一方、かつての国内ITサービスを支えたプロセッシングサービス(受託計算など)は、落ち込みが厳しい。この部分は海外への移行が進み、減少分をクラウドが補うことになる。
ITアウトソーシング市場の中期予測
figure 3 「勢力」を読む
クラウド用先行投資を早期に収益へ
国内ITサービスをメインに展開する主要ベンダーの売上高が2010年3月期は、軒並みマイナス成長となった(IDC Japan調査)。売上高1000億円を超すITベンダー12社のうち、伊藤忠テクノソシューションズ(CTC)と野村総合研究所(NRI)の2社だけがプラス成長。そのCTCとNRIも、2010年9月の中間期には、前年同期比でマイナス成長だった。CTCはネットワーク認証や従来ビジネスのシステム構築が伸びたが、同2.8%の減収。NRIは証券会社向けの受託ソフト開発からサービス型へシフトする転換点の立ち止まりで、同2.9%の減収となった。唯一、ITホールディングスだけが増収だが、主要各社ともクラウド関連や新規サービス向け投資が増え、営業利益率が下落。先行投資分を早期に収益に結びつけることが問われている。
現状では、急激な市場環境の好転を見込めず、BPOなどの見直しや内製化、グループ体制やアライアンス方法を改革することを続けつつ、クラウドの立ち上がりと中国など旺盛な需要がある海外へシフトする分岐点にある。2010年の国内ITサービス市場が若干の減少にとどまったのは、ハードウェアなど「モノ売り」がシステム統合案件などのイレギュラーな需要増に助けられたためだ。広大な海外市場を目指し、国内ITベンダーの再編も起きそうだ。
国内ITサービスベンダーの
ITサービス売上高成長率とITアウトソーシング比率
figure 4 「海外展開」を読む
海外展開が成長持続のカギ
国内IT市場の伸びが鈍化し、なかなか需要拡大が見込めないなか、主要SIerや大手ハードメーカー、同系列ベンダーなどは海外へ市場を求め動き始めた。大手メーカーでは、富士通が欧州、日立製作所が中国での海外進出で先行する一方、NECが中国・大連市にデータセンターを設置するなど、海外展開で攻勢をかけている。とくに最近顕著なのは、中国への進出だ。NTTデータを皮切りにITホールディングスやメーカー系列では、富士通マーケティングやJBCCなども本格進出を開始した。日本の製造業を中心に拠点を増やすのに歩調を合わせ、こうした日系企業への導入・サポートを主体とし、現地ローカル企業へも入り込もうとしている。NRIやCTCなど国内主体に収益を伸ばしてきたITベンダーの海外展開にも注目が集まってこよう。
ただ、海外進出で一定の収益をあげているITベンダーの多くは、売上高の大半がハード・ソフトの「モノ売り」でITサービスが少ない。しかも、海外に現地法人をもつ日系企業向けが中心であることを考えると、現状のビジネス展開では海外で日本の需要減分を補うことなど到底できない。NTTデータやIT・HD、NECなどに加え、富士通も来年の早い時期に中国にデータセンターを開設する。クラウド/SaaSといった“空中戦”で中国ローカル企業の攻略が始まる。
主要ITベンダーの「海外展開・進捗度」と「海外比率度」