2011年7月1日、レノボとNECが共同出資する持ち株会社「Lenovo NEC Holdings B・V」が本格的に動き出す。その準備に向けて今、レノボとNECの両社の幹部が集う合同会議を毎週開いている。レノボ・ジャパンとNECのパソコン会社のトップなどが揃う、この戦略会議のメンバーは総勢およそ20人。レノボ・ジャパンの社長であり、新たな持ち株会社の会長に就くロードリック・ラピン氏が「週刊BCN」編集部の単独取材に応じて、その中身を語った。(木村剛士)
「Lenovo NEC Holdings B・V」は、レノボが51%、NECが49%出資する持ち株会社で、パソコン事業を共同展開するためにつくられる。傘下には、NEC側の事業会社である新会社、NECパーソナルコンピュータと、レノボの日本法人(レノボ・ジャパン)がぶら下がり、各々の既存ブランドで事業展開する。ロードリック・ラピン氏は、現任のレノボ・ジャパンの社長を務めながら、新しい持ち株会社の会長を兼務して、重要な役割を果たす。
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| 新持ち株会社の会長とレノボ・ジャパンの社長を兼務するロードリック・ラピン氏 |
ラピン氏はまず、今回の協業を正式発表してから、両社の幹部が揃った合同会議を毎週開いていることを明かにした。会議の参加者はラピン氏やNECパーソナルコンピュータの初代社長に就く高須英世氏(現・NECパーソナルプロダクツ社長)などのトップ層に加え、外部のコンサルタントも入れて合計およそ20人。毎回、3時間ほど時間を費やすという。
ラピン氏は、「(大型合併ということで)公正取引委員会に情報共有を止められている部分があって、議論できていない項目もある」と前置きしながらも、現段階で議論・検討している協業内容について話した。
まず一つ目が、レノボ側のメリットとして、「レノボは、NECのパソコンを海外で販売する」こと。今回の協業範囲を、国内だけでなく海外にまで広げようとしている。二つ目はNEC側のメリットで、「日本企業の海外現地法人が、レノボの海外の拠点を通じてNECのパソコンを購入できるようにすること」。PC事業を海外市場から撤退しているNECとしては、日本企業の海外現地法人にパソコンを届けやすくなる。
三つ目がNECパーソナルプロダクツがもつパソコンの開発・製造拠点「米沢事業所」(山形県米沢市)の活用。ラピン氏は、「米沢(事業所)は、NECの高い顧客満足度(CS)を維持する武器。閉鎖という選択肢はない」と断言したうえで、「米沢のBTOの能力を、将来的にレノボが活用させて頂くことも検討している」と話している。そして四つ目が研究・開発分野。これについては、「レノボとNECがもつそれぞれの研究・開発部隊を維持しながら、連携できる範囲を模索している」という。研究・開発の完全統合は考えておらず、それぞれが独立したかたちをとる方針だ。現段階では、これらが主に議論されている内容のポイントだ。
NECとレノボがそれぞれもつ間接販売体制の連携・統合については、「可能性はあるものの、詳細を議論するには至っていない」とした。また、最大の焦点となる部品の共同調達による価格値下げは、「公取の指示があって、部品の調達コストをお互いに共有できていない状況で、今の段階で私が話す材料はない」と説明。しかし、「その期待を裏切るつもりはない。楽しみにしてほしい」と語った。また、パソコン以外の製品に関する協業は、「まずはPC事業での成功が最優先。サーバーやモバイルインターネットデバイスなどの分野で協業メリットを享受できる部分はあると思うが、PCに専念する」とした。
調査会社IDC Japanによると、2010年の国内パソコン市場のシェアはNECが19.3%(1位)で、レノボ・ジャパンが6.3%(6位)。両社のシェアは単純合算で25.6%になる。これを「それぞれがシェアを伸ばして30%に到達させたい」とラピン氏は語り、今後、議論を加速させる。
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2010年の国内パソコン市場の ベンダーシェア |
表層深層
レノボ・ジャパンの2010年の国内パソコン市場シェアは6位だが、09年は8位で、順位を2ランク上げている。09年の出荷台数と比較した伸び率では、断トツのトップで、09年比成長率は62.3%。市場全体の伸び率17.9%を大きく上回っている。
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2010年のベンダー別 対前年比成長率 |
日本IBMが開発・製造していた時代から「ThinkPad」を売り続けるパソコン販社であるハイパーの玉田宏一社長は、「ラピンさんが社長に就いてから、メーカー(レノボ)との風通しがよくなった」と歓迎している。05年に設立されて以来、鳴かず飛ばずだったレノボ・ジャパンが、市場が好転した2010年に飛躍したことは数字が裏づけている。
レノボ・ジャパンがNECと協業することのメリットを最も感じられるのは、販路だろう。NECの技術や開発・生産部隊、サポート体制、日本のユーザーの嗜好を知っている点は魅力だろうが、個人、法人市場を問わずNECが築く流通網は強固で、強みだ。NECのパソコン販社や、NECとつき合いの深い家電量販店に対して、レノボ・ジャパンがパソコンの取り扱いを提案できる機会を得られるだけでも、レノボ・ジャパンには十分価値があるはずだ。
ラピン氏は、販売面での協業について「まだ議論できていない」としているが、レノボ・ジャパンが今後シェアをさらに伸ばすためには、販路の連携は必須となるだろう。NECがそれを認めるかどうかは別として、NECの販売会社がレノボ製品を売るとなれば、レノボ・ジャパンはますます国内市場で強くなる。(木村剛士)