NEC(遠藤信博社長)とレノボ(ヤン・ユアンチンCEO)によるパソコン事業の新会社設立。1月27日19時、都内のホテルで両社のトップなどが登壇した記者会見を開催したが、具体的な協業内容はまだ詰められていない印象が強く残った。IT業界の見方はさまざまだが、パソコン事業に対する冷ややかな見方も多い。今回の協業は、国内No.1メーカーでも利益捻出が難しく、単独で事業展開することが難しい現実を鮮明に表した格好だ。(木村剛士)
販社は冷ややかにみる傾向
今回の協業内容は、レノボとNECの共同出資による新会社を設立してパソコン事業を共同展開するというもの。仕組みはレノボが51%、NECが49%の出資比率で持ち株会社「Lenovo NEC Holdings B.V」(本社はオランダ)を設立し、その傘下にNEC側のパソコン事業会社「NECパーソナルコンピュータ」、レノボの日本法人である既存会社レノボ・ジャパンを配置する。合同出資会社の下に、それぞれの事業会社がぶら下がり、それぞれが個別にパソコン事業を展開する構図だ。NECパーソナルコンピュータは、NEC子会社のNECパーソナルプロダクツ(NECPP)が母体になり、NECPPのパソコン事業部隊の約1500人が新会社に異動する。
NECは、国内パソコン市場で今年度(2011年3月期)は通期で260万台を出荷する見込み。売上高規模は2000億円程度で、シェアはトップだ。しかし、パソコンや携帯電話などの開発・販売を手がける「パーソナルソリューション事業」は営業赤字(今年度第3四半期)。国内No.1メーカーでも、パソコンの開発・販売事業で利益を捻出するのは難しい。ライバルである富士通の山本正已社長は、「正直に言ってかなり驚いた。富士通も同じことを考えていなかったわけではなかった」と打ち明け、パソコン事業を取り巻く環境の厳しさを吐露した。
NECはレノボと合弁会社を設立することで、部品調達力を強めて原価を抑え、利益を捻出できる体制を築こうとしている。ただ、この協業内容にはまだ不透明な部分がある。新たに設立する新会社は持ち株会社で、その傘下にそれぞれの事業会社が配置される形をとる。生産・販売体制は、「当面は別々で展開する」(レノボのヤンCEO)。「両社のブランドも製品ラインアップも従来通り」(NECの遠藤社長)。つまり、現段階では、部品調達の面以外での協業内容は明らかにされていないのだ。
PC事業の主な動き
NECのサーバーやパソコンを販売するSIerの社長は、この点について「今のままの協業内容であれば、それほど問題はない。しかしながら、協業内容が販売(流通)体制の一本化などに及ぶならば、大きな変化をもたらす。製品の調達方法も変わるだろうし、そのときは考えなければならない。NECもきっとそこまでを見越しているはずだ」と語る。
新持ち株会社の社長と、その傘下の事業会社であるNECパーソナルコンピュータの社長を兼務する高須英世氏は、「販売・流通網の共通化は、そう簡単なものではない」と話している。しかし、NECの遠藤社長は、販売・流通体制の一本化について「今は具体的なことは思いつかないが、将来的にはいろいろな可能性があるはずだ」と説明し、含みをもたせた発言をしている。確かに、部品調達面だけでの協力だけでは、このような大がかりな体制は必要ないので、今後、提携範囲が広がる可能性は十分に考えられる。
1月27日に開いた緊急会見では、具体的な内容が詰められていない印象が強かった。新持ち株会社が設立される今年6月までにさまざまな内容を固めるはずだ。そのなかで、部品調達以外の製造や販売分野で協業範囲が決まる可能性が高く、今後の焦点になるのは間違いない。
ただ、あるSIer幹部はこう語っている。「パソコンがビジネスの中心でなくなり、正直にいえば、どのパソコンを担いでも同じ。提携の範囲がどうであろうと、それほど影響はない。パソコンはSIビジネスにおいて力を失っている」。パソコン事業の継続にこだわり、今回のような協業の形を決断したNEC。だが、それを販売する販社にとっては、「どうでもいい商材」にもなりつつある。利益捻出が難しく、単独での事業展開を諦めたメーカーに、売ることに関心が薄れている販売会社。家庭や企業に普及したパソコンは約15年を経て、うまみのない商材になったことが改めて実感できる出来事だった。
表層深層
1月27日、19時から東京・千代田区の帝国ホテルで開催されたレノボとNECの共同会見。同日16時からNECは第3四半期の決算会見を開いたが、その会見では今回の協業については口を閉ざしていた。その後、17時50分に緊急会見の案内が届き、19時に両社のトップほか幹部が参加した共同会見が始まる段取りだった。
会場には約200人ほどの報道関係者が詰めかけた。一部のメディアで報道されて以降、かたくなに口を閉ざしていた両社が、緊急会見という形で満を持して発表にこぎつけた。
しかし、不満の残る会見ではあった。両社が共同でパソコン事業を手がけることと、その仕組みは分かったものの、具体的な内容についてはほとんど言及しなかった。両トップともに「今後可能性を探っていく」というコメントのみに終始し、開発・販売体制などについては何も明らかにしなかった。
しゃべらなかったのか、それとも(まだ内容が固まっていないので)しゃべれなかったのは定かではないが、もし後者であれば、形だけにとらわれ、具体的な内容については意見が合わないことも考えられる。「総論賛成、各論反対」という事態が生じる恐れもゼロではないはずだ。
一部の報道を受けて、それに応えるように正式発表にこぎつけたという印象が強かった今回の緊急会見。大切なのは、新会社が設立される6月までのあと4か月だろう。NECにとっては、この時間がとても重要になる。