Linux技術者認定試験「LPIC」を企画・運営する特定非営利活動法人のLPI-Japan(成井弦理事長)は、5月下旬、パートナー向けイベントを開催した。成井理事長が基調講演に登壇して、オープンソースソフトウェア(OSS)の普及状況と、今後の可能性について説明。OSSの利用範囲とユーザーが着実に増加していることを強調した。このほか、6月上旬に正式発表したオープンソースデータベース(OSS-DB)関連技術者の認定資格制度の概要をひと足早く披露。OSに加えてミドルウェアにも手を広げ、活動範囲が拡大していることを印象づけて、イベントに参加したOSS関連企業担当者の関心を集めた。(取材・文/木村剛士)
想定以上に普及したOSS
成井理事長が基調講演
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| パートナーイベントで講演した成井弦理事長 |
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| 新資格制度を説明した松田神一・テクノロジー・マネージャー |
LPI-Japanは、特定のLinuxに依存せず、中立的な立場でLinux関連のスキルと知識を試験・認定するNPOである。Linux技術者認定資格制度「LPIC」は、2000年に国内でスタートし、11年5月末時点で受験者数は16万4000人を突破している。公平な立場であるNPOが展開するLinux技術者認定試験は、「LPIC」以外では実施されていないことから、開始直後から人気を集め、今も着実に受験者数が増えている。
5月に開催したイベントは、LPI-Japanの活動に賛同するパートナー企業向けに開いた。新たに開始したOSSのデータベースに関するスキルを試験・認定する「オープンソースデータベース(OSS-DB)技術者認定試験」の概要を、一般発表前にパートナーに説明することが主な目的だった。これまではOSであるLinuxだけが対象だった認定・資格制度を、データベース(DB)というミドルウェアに広げ、活動範囲を拡大させることを、パートナーに伝えた。
プログラムでは、成井弦理事長が基調講演に登壇し、「OSS-DBが切り開く新たな世界」をテーマに語った。「LPI-Japanが設立された10年ほど前には想像ができなかったほど、Linuxはさまざまな企業やシステムで利用されている。基幹システムでの採用実績が増え、HPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)システムでは99%がLinuxと言われている」と、OSSの普及速度が自身の想定以上に速いことを感慨深げに語った。
続けて、OSSの未来に言及し、「今後はOSの上に載るミドルウェアで、OSSの採用が進む。とくに、OSSのDBを活用する企業は多いはずだ。(OSSのDBで代表的な)『MySQL』は、(商用DBをもつ)日本オラクルが保有することになり、今後どうなるか分からないが、『PostgreSQL』は大きな可能性がある。『PostgreSQL』のユーザーは開発コミュニティもしっかりしていて、日本は諸外国よりもユーザーが多い」と、今回「PostgreSQL」を対象とした新制度を立ち上げた狙いを語った。

新資格制度の発表記者会見を開催。LPI-Japanの幹部が揃い、大々的にPRした
OSS-DBの技術者不足が深刻
新制度の概要を説明
次のセッションでは、LPI-Japanの松田神一・テクノロジー・マネージャーが、新試験制度を開始した背景と概要を話した。松田氏は、独立行政法人の情報処理推進機構(IPA)の調査資料をもとに、「商用DBから移行されるOSSのDBとして最も多いのは『PostgreSQL』」と紹介し、「PostgreSQL」の需要が強いことを説明。そのうえで、別の調査資料を示し、「45%以上の企業がOSSの技術者が不足していると回答している。とくに、『OSSのミドルウェアで技術者が足りている』と回答している企業は10%にも満たない」とし、OSSのミドルウェア技術者の育成が急務である現状を力説した。
そのうえで、今回の具体的な内容を説明した。「OSS-DB認定資格試験」は、「PostgreSQL」に関する知識について試験し、合格すれば認定書を付与する。コースは、「OSS-DB Silver」「OSS-DB Gold」の2種類を用意した。「Silver」は、DBの設計・開発・導入・運用ができるかどうかを試験する内容。一方、「Gold」は、大規模なミッションクリティカルシステムでの設計指針、運用管理、コンサルティングができる人材かどうかを試験する。
「PostgreSQL」は、1986年に公開されたOSSのDBで、商用DBに劣らない性能をもち、商用DBとの親和性が高いのが特徴だ。日本ではSRA OSSが日本語機能の拡充を進め、NTTのOSSセンタがエンタープライズ系の機能拡張を行ってきた。今回の新資格制度は、開発コミュニティで有力なSRA OSSとNTT OSSセンターの協力を得て開始している。
ユーザーの引き合いが多いにもかかわらず、技術者が不足している「PostgreSQL」。技術者にとっては自身のOSSのスキルを高め、実証するためのお墨付きになり、SIerやソフト開発会社にとっては、OSSの技術者育成に役立てることができる。一方、ユーザー企業にとっては、資格取得状況によって、OSS関連システムを発注するための指標になる。Linuxの認定技術者制度で存在感を示したLPI-Japanが満を持して始めた新資格制度は、OSSのDB技術者育成に弾みをつけそうだ。