仮想化によるサーバーの集約は、企業とって今や“あたりまえ”のことになりつつある。国内では2006~07年頃から導入する企業が現れはじめ、ソフトウェアのなかでもサーバー仮想化ソフトは圧倒的な成長ぶりを示している。とはいえ、サーバー仮想化ソフトは大企業でも導入していない企業が多く、市場レイヤーの上から下まで、市場はまだまだ開拓の余地が大きい。(文/鍋島蓉子)
figure 1 「市場動向」を読む
ソフトウェア市場でダントツの伸び
サーバーの仮想化は「あたりまえ」のことになりつつある。国内サーバー仮想化の市場環境における、2009年の前年比成長率は22.5%。また2010年の前年比成長率は57.7%だ。調査会社のIDC Japanの入谷光浩ソフトウェア&セキュリティソフトウェアマーケットアナリストは「通常4~5%伸ばすのがやっとのソフトウェア市場において、仮想化ソフトウェアの勢いには目をみはるものがある」と話す。
x86サーバーをスリム化できるソリューションとして注目を集め始めたが、リーマン・ショックの際には、成長率が若干伸び悩んだ。しかし、「コストを下げる」というユーザー企業の意識がトリガーとなり、2010年には高い成長を遂げた。東日本大震災の影響は未だ不透明だが、サーバー統合自体は加速の一途をたどっている。地震に関連する「節電」「ディザスタリカバリ」などは、仮想化ソフトウェア浸透のさらなるけん引役になるとみている。
国内サーバー仮想化ソフトウェア市場の売上額実績と予測
figure 2 「導入動向」をみる
大規模ユーザーでも4分の1にとどまる
IDC Japanが523社を対象に調査した企業規模別の導入状況をみると、サーバー仮想化を実施済みの企業は、従業員数5000人以上で20.5%、1000人以上で24.2%と、大企業でも4分の1程度にとどまっていることが分かった。市場のすそ野が広がっており、中堅・中小企業(SMB)の上位レイヤーでも仮想化を検討する動きが高まっている。とくに従業員500人前後で、サーバーを10台から20台ほど抱えるユーザー企業は、情報システム部門は設置しているものの、IT担当者が少なくて運用に苦労している実態がある。
また、仮想化の導入を検討している企業が多い状況で、市場の伸びしろは大きい。一般企業での導入の状況は、ヴイエムウェア、日本マイクロソフトの二大ベンダーの牙城となっている。注目すべき仮想化ソフトウェアにXenがあるが、プロバイダが提供するIaaSをはじめとするクラウドサービスなどに用いられている状況だ。国内でLinuxシェアの高いレッドハットがKVMのサポートを開始したことを勘案すれば、KVMの動きが気になるところだ。
ハイパーバイザーによるサーバー仮想化の実施状況(従業員規模別)
figure 3 「プレーヤー」をみる
三強はそれぞれの得意分野をもつ
仮想化ソフトウェアを開発・販売する主なベンダーは、「VMware vSphere」を提供するヴイエムウェア、「Windows Server 2008 R2」の1機能として「Hyper-V」を提供している日本マイクロソフト、「Citrix Xen Server」を販売するシトリックス・システムズ・ジャパンなど。
ヴイエムウェアは仮想化製品の草分け的存在で、ランキング雑誌『フォーチュン100』に登場する大手企業の100%、『フォーチュン1000』では99%が導入している。同社は、ユーザー企業のプライベートクラウド構築に導く戦略を推進している。
日本マイクロソフトはSMBに強い。ユーザーが「仮想化によって、アプリケーションをいかに効率的に使い、サポートを受けるか」に重点を置き始めたことから、パートナーのなかで「Hyper-V」の認定資格者取得が増加。累計7000人を突破した。同社はパートナー、ユーザーに向けて「よろず相談所」の役割を果たすコールセンター「Hyper-V Direct」を設置しているほか、IBMやデルなどと、仮想化の推奨構成を提示する戦略を打っている。
シトリックスが提供する「Xen Server」は、サーバー単位の課金で、コストパフォーマンスが高いことから、クラウドサービス事業者のインフラとして、またSMBでの導入が進む。
主要メーカーと製品
figure 4 「戦略」を読む
クラウド構築、サーバー統合がキーワード
ヴイエムウェアでは、ITを「サービス」として利用することで、ビジネスに必要な柔軟性や、俊敏性を与える「IT as a Service」を実現しようとしている。そのためのソリューションが、クラウド基盤となる「vSphere」であり、クラウド構築のための統合スイート製品群だ。同社では大手企業に対して、コンサルティングを踏まえてソリューションのアップセル、クロスセルにつなげている。SMBに対しては、啓発や、パートナーが独自の個別ソリューションを提案できる環境づくりに力を入れている。
日本マイクロソフトは今後、大企業の開拓を課題としている。大企業では実績やノウハウのある製品を選択する傾向にあるので、「Hyper-V Cloud Fast Track」という施策を推進。各ハードウェアベンダーと組んで、最適な構成などを共同検証して、リファレンスを提供する。競合製品のリプレース時期を狙って、コスト削減をうたい文句に、需要を取り込む考えだ。シトリックスの「XenServer」は無償版を含め、四つのエディションで構成しているが、いかに有償版にアップグレードしていくかが今後の課題だ。有償版の機能強化を行う一方、同社のプライベート/パブリッククラウド構築ソフトウェアと組み合わせてクラウド構築ソリューションとして提供する動きを強めている。
各社の得意とする領域