マイクロソフト(樋口泰行社長)が、仮想化技術「Hyper-V」の普及に向けて新たな策に打って出る。11月下旬にITベンダー向け販促施策を開始。システムインテグレータ(SIer)やITサービス事業者が仮想システムの構築で「Hyper-V」を採用し、再販しやすい環境をつくる。マイクロソフトは2010年1~6月で、x86サーバー用仮想化ソフトウェアの導入企業数で初めてトップに躍り出た(IDC Japan調べ)。累計ユーザー数では最大手のヴイエムウェアに及ばないものの、後塵を拝していた状況から抜け出した勢いで、一気に攻め込む。(木村剛士)
マイクロソフト、1~6月実績を武器に新施策開始
仮想化ソフトウェアとは、1台のコンピュータで複数のOSを動作させるためのもので、ハードウェアの有効活用によるコスト削減効果が見込める。国内では、一部の先進ユーザーや大手企業がサーバーを仮想化し始め、現在は中堅・中小企業
(SMB)にも需要が広がり、伸び続けている。調査会社のIDC Japanは、国内の仮想化ソフトの2009年~14年の年平均成長率(CAGR)は20.5%で、仮想化するためにユーザーが購入するサーバー(仮想化サーバー)の出荷台数のCAGRは15.9%と予測した。中期的にも伸びるとみている。
この有望分野でトップをひた走るのがヴイエムウェアだが、その構図に変化がみえ始めた。2010年1~6月の半年間に限定すると、x86サーバー用の仮想化ソフトウェアでいちばん多く導入されたのはマイクロソフトの「Hyper-V」だった(IDC Japan調べ、図参照)。「Hyper-V」がトップを獲ったのは今回が初めてとなる。マイクロソフトはサーバーOS「Windows Server 2008」に「Hyper-V」を組み込む戦略で、08年6月から提供を始めていた。2年の時を経て、期間限定、製品別ではあるものの、トップを奪った格好だ。
マイクロソフトの浅野智・サーバープラットフォームビジネス本部プライベートクラウド製品部マネージャーは、好調の理由について「需要が広がっている中小企業にコストダウンのメリットを効果的に訴えられたことが大きかった」と説明。加えて「(マイクロソフトの)仮想システムの管理ソフト『System Center Virtual Machine Manager』が受け入れられ、セットで提供できた」とも話す。「System Center Virtual Machine Manager」の販売は前年に比べて約3倍に伸びており、相乗効果が出ているという。
累計ユーザー数ではヴイエムウェアに遠く及ばない。だが、マイクロソフトにとっては大きな販促材料で、この実績を武器に攻勢をかける構えだ。11月下旬からユーザー企業や仮想化ソリューションを販売するITベンダー向けの支援策をスタートさせる。
まず仮想化ソリューションの導入を検討、提案、情報収集するユーザー企業やパートナーに向けて専用のコールセンターを11月25日に開設する。ユーザーやパートナーがもつ仮想化に関する疑問や課題を受け付けて、無料で相談に乗り、「Hyper-V」の強みを訴える。データベース製品「SQL Server」ではすでに展開済みの施策を、今回「Hyper-V」にも横展開した格好だ。当初は期間限定で設置するはずだったが、現段階で無期限で開設することになった。
また、東京千代田区に設置する評価・検証施設「大手町テクノロジーセンター」を活用し、仮想化関連のワークショップなども開き、仮想化と「Hyper-V」に対する理解を深めてもらうようにする。さらに、「Hyper-V」に関するスキルを評価・認定する制度「Hyper-V 仮想化検定」を無償で受験できる期間を、従来の10年6月末から9月末まで延長することも決めた。検定に合格すると、「Hyper-V 導入コーディネーター」という称号が与えられて、すでに約1200社が受検している。
システムの仮想化は、クラウドの必須技術といわれ、今後ますます普及が進むのは間違いない。2014年には4台に1台が仮想サーバーになるというデータもある。伸びる市場で、ソフトの巨人が仮想化最大手を本格的に追撃しようとしている。
x86サーバー用仮想化ソフトウェアの導入企業数
表層深層
「Windows Server 2000」は12万台、「Windows Server 2003」は86万台――。マイクロソフトの浅野智プライベートクラウド製品部マネージャーは、国内にある旧OSを搭載したサーバーの台数をこうみている。「これらの旧OSサーバーを現行OSに移行させる際、システムを仮想化するケースが多いはず。その際に仮想システムの構築・運用ビジネスが急速に伸びる。SMBを対象にするITベンダーにとってチャンスになる」と浅野マネージャーは続けた。
中小企業だけでなく、大企業でも新たなチャンスがあるという。浅野マネージャーによれば、32台以上のサーバーを一括で購入した案件は2009年度(08年7月~09年6月)の年間で3000件あったという。一方、今年度の第1四半期(2010年7~9月)の実績で試算すると、今年度は「年間7000案件はいけるペース」と豪語する。「30台以上のサーバーを購入する場合、その利用用途はプライベートクラウド構築やデータセンターを設置するのが大半だろう。その際、システムを仮想化するはずで、ここにも需要がある」と説明する。
旧サーバーの買い替えに、クラウドシステム構築といった新旧二つのニーズが顕在化することになれば、x86サーバーのOSとして利用されることが多い「Windows Server2008」が売れ、自然と「Hyper-V」が伸びる構図ができあがる。OSをもつマイクロソフトの強みが仮想化で顕在化し始めている。