パソコンは今、メーカーの動きが世界レベルで激しい。レノボとNECによる共同出資会社設立に加え、米ヒューレット・パッカード(HP)がパソコン事業の分社化を検討するなど、慌ただしくなってきた。国内だけでみれば、2010年に過去最高の出荷台数を記録し、好調なマーケットのようにみえる。しかし、メーカーは再編に動いている。果たして、パソコンは発展する市場なのか。パソコン業界の過去と現在を俯瞰して、今後を予測する。(文/木村剛士)
figure 1 「経緯」を読む
撤退メーカーが相次いだ10年間
パソコンメーカーは、この10年の間に大きな決断を下してきた。その経緯をみると、市場からの撤退や事業の譲渡、自主生産の打ち切りなど、パソコン事業の厳しさを感じさせる経営判断が目立つ。2002年5月、当時世界市場で2位の米コンパックが4位の米ヒューレット・パッカード(HP)に買収されたのを皮切りに、国産、外資系を問わず、複数の有力パソコンメーカーが姿を消してきた。
外資系でみると、米ゲートウェイが台湾のエイサーグループに加わり、国内では、日立製作所が法人向けパソコンの自主生産を打ち切った。その後、オンキヨーがソーテックを吸収合併し、2010年秋にはシャープがパソコンの生産を打ち切っていたことがわかった。これをみると、とくに国内メーカーの後ろ向きな判断が目立つ。新興国を除いて、パソコン市場は飽和し、ビジネスチャンスは購入後3~5年後の買い替え需要をどう獲得するかだけ。価格競争などの消耗戦を余儀なくされ、生き残れないメーカーが姿を消す。それがこの10年間のマーケットの動向だ。
この10年のパソコン業界の主なトピック
figure 2 「勢力」を読む
米系2社を追うアジア系2社
2010年の全世界でのパソコン出荷台数は、約3億4700万台に上る。このマーケットで優勢なメーカーをみると、米国の2社を追いかけるアジアメーカー2社という構図が浮かび上がる。2010年のメーカー別シェアでトップに立つのは米HPで、シェアは18.5%。2位は12.5%の米デル。1位と2位とは6ポイントの差があり、HPが一歩抜きん出ているのがわかる。その後ろをアジア勢のエイサーグループ(12.4%)とレノボ(9.8%)が追っている。3位のエイサーグループは、デルに0.1ポイント差にまで迫っている。
世界シェアをみて驚くのは、日本メーカーの存在感の薄さだ。シェアが5%を超え、上位5位に入るのは東芝だけ。国内市場ではシェア19.3%でトップのNECは、世界シェアでみると0.9%しかなく、国内シェア19.0%で2位の富士通も、世界の舞台では1.6%しかない。日本というマーケットがいかに小さく、加えて日本メーカーが世界市場でいかに受け入れられていないかがわかる。
パソコンのメーカー別世界シェア
figure 3 「市場規模」を読む
出荷台数は横ばいが続くか
調査会社のMM総研のデータを活用して、国内パソコン市場の出荷台数を年度別でみた過去4年の実績と、今年度(2011年4月~12年3月期)の見込みを示したのが右図である(個人向けを含む)。実績をみると、07年度~10年度まで伸び率に多少の違いはあるものの、一貫して前年度を超え、10年度には過去最多の出荷台数となる1456万5000台に到達。MM総研によれば、最多の出荷台数を10年ぶりに更新したことになる。10年度の実績を個人と法人で分けると、個人向けが前年度比6.8%増の737万台、法人向けが同2.6%増の719万5000台で、ともに伸びた。
法人向けの伸び率は個人に比べて低いが、これは前年度の09年度に「Windows 7」への買い替え需要が高まったことと、政府の「スクール・ニューディール構想」による学校向け特需の反動によるものだ。伸び続けてはきたものの、今年度は一転してマイナス成長に陥る。台数は3.5%減の1405万台だ。これは、東日本大震災が影響している。MM総研は、震災前は前年度並みを予測していたが、震災の影響によるマイナスを約50万台と試算して下方修正している。ただし、震災の影響は上期だけにとどまる可能性が高いともみている。MM総研に限らず、複数のIT調査会社の予測をまとめて推測すると、この先数年の販売台数は1400万~1450万台の範囲で落ち着く可能性が高い。
国内パソコン市場の出荷台数推移
figure 4 「今後の選択肢」を読む
多様化が進むクライアント端末の種類
クライアント端末の今後を考えれば、パソコンだけが選択肢とは考えにくい。ネットワークの高速化と仮想デスクトップ技術の普及は、シンクライアント端末を本格的に普及させる原動力になるだろう。クラウドを活用してデータを端末に保存しない方法を求めるユーザー企業が増加する傾向にあり、そうなるとクラウドと相性がいいシンクライアント端末が従来以上に伸びる可能性がある。
一方で、「iPad」が火をつけたタブレット端末については、パソコンメーカーも開発に力を注ぎ、WindowsとAndroidを載せたモデルが増えている。そこに割って入るのがスマートフォンだろう。スマートフォンはデータを作成したり、編集したりするのは苦手で、パソコンを脅かす存在にはならないはず。だが、小型で携帯性にすぐれるスマートフォンは、情報の閲覧には適している。メールの返信など、若干の情報作成なら難なくこなせる。用途によるが、スマートフォンがモバイルパソコンに取って替わる可能性もゼロではないはずだ。MM総研によれば、国内のスマートフォン出荷台数(個人向け含む)は、2010年が前年比3.7倍と驚異的に伸びて855万台を記録し、15年には3056万台に到達する予測を発表している。ビジネスで利用するクライアント端末の主役がパソコンであることに変わりはないとみられるが、多様化は進むはずだ。
各クライアント端末の成長率