リコージャパンが、中小企業に適したクラウドサービスの商材集めに本腰を入れ始めた。月額課金型のITサービスを、ソフトメーカーなどから広く募集。そのなかから、中小のユーザー企業のニーズが強く、リコージャパンの品質基準を満たすサービスを選び出して、全国の営業担当者が販売する体制を確立する。選定したクラウドは、リコージャパンが今秋に新設するクラウドの総合ブランド「リコーワンストップくらうど(ROC)」のサービスラインアップに入れる。「ROC」には、すでに16種類のクラウドメニューがあるが、これを1年以内に100種類にまで増やしていく。中小企業に強い国内有数のIT販社が、クラウドを本気で売ろうと動き始めた。(木村剛士)
 |
| 窪田大介専務執行役員 |
リコージャパンは、リコーグループの販売会社の位置づけで、リコー製プリンタやMFP(複合機)のほか、パソコンやサーバー、ソフトウェアの販売にも強い。全国296か所に拠点を設置(2011年7月1日時点)し、抱える営業担当者はおよそ1万人。全国にOA・IT機器とITサービスを売り込めるだけの強力な営業基盤をもっている。窪田大介・専務執行役員ソリューション事業本部本部長によれば、今年度(2012年3月期)上期の売上高見込みは、前年同期比7%増の830億円で「ほぼ計画通り」。とくにサーバーは「前年同期比で17%成長させることができた」と好調ぶりを語る。
ハードやソフトの販売事業を伸ばしていく一方で、今後の注力ポイントとするのが、クラウドだ。「これまでにもクラウドと銘打ったサービスはいくつかあったが、体系化していなかった」(佐藤芳郎・理事ソリューション事業本部副事業本部長)という実情がある。「リコージャパンがとくに強い中小企業のクラウドを提案できる環境になった」(佐藤・理事副事業部長)ことから、今回、クラウドを本気で売るための策を講じたわけだ。「ROC」は、リコージャパンがクラウド事業を急成長させるための戦略的ブランドとなる。
「ROC」のサービスメニューは、自社でつくるのではなく、他社との協業で増やしていく。ISVなど、月額課金型のサービスをもつITベンダーに対して、「ROC」へのサービス供給を呼びかける。集まったサービスを、リコージャパンが中小企業のニーズの有無、品質、サポート体制などで審査して選定する。参加を希望するITベンダーには、申込みや参加の費用は発生しない。一連の流れをスムーズに進めるために、「リコーワンストップくらうどパートナープログラム」と呼ぶ制度をつくり、事務局も設置した。
選りすぐったサービスは、リコージャパンが「ROC」認定サービスとして、ウェブサイトやメール、紙の販促資料などで大々的にPR。引き合い情報を管理するセンターも設けて、リコージャパンの営業担当者が客先に提案に出向く。これを全国規模で手がけるわけだ。売り上げの分配方法はサービス供給会社ごとに詰めるというが、主にはリコージャパンが回収し、一定割合の金額をサービス開発元のITベンダーに支払う仕組みだ。
リコージャパンはサービスメニューを広く募集する前に、すでに16種類のメニューを揃えた(図参照)。今秋から告知・提案活動に本腰を入れて募集する。「目標は1年以内に100メニュー」(佐藤・理事副事業本部長)としている。9月下旬にはISVなどを集めた「ROC」の説明会を開催。24社、約45人が集まった。説明会は、今後も継続的に開いて参加を呼びかける。
クラウドは確実に浸透しているものの、それが中小企業に売れているかといえば、そうとも限らない。中小企業に強い国内屈指のIT販社であるリコージャパンが、過去に例のない「クラウドを売るための大規模な仕組み」をつくったことは、注目に値する。コピー・プリンタ機器で40万社のユーザー企業を抱え、1万人もの営業担当者を擁する巨大販社が、いよいよクラウド拡販に向けて動き出す。

「リコーワンストップくらうど」のサービスメニュー
表層深層
月額課金型サービスを集めて体系化し、中小企業に売り込もうとするITベンダーは、リコージャパンだけではない。複数の大手コンピュータメーカーが手がけているし、大手のディストリビュータも行っている。経済産業省が主導してつくり、後に富士通が引き取った「J-SaaS」も同じような形態だ。だが、それらすべてが成功を収めているかといえば疑問が残る。「初期投資が不要で運用の手間もない=中小企業に適している」という安易な考えで、売るための仕組みを考えていないために失敗したケースも少なくない。
「リコーワンストップくらうど」が成功する可能性があると記者が感じるのは、強力な営業力があることだ。そして、コピー機・プリンタのユーザーを約40万社、インターネット接続サービス「NETBegin BBパック」のユーザーを10万社という顧客基盤をもっていることも、大きな強み。とくに、「NETBegin BBパック」という月額課金型のITサービスで、10万社もの顧客を獲得した成功体験があるのは大きいはずだ。
カギを握るのは、どこまで知名度を上げることができるかだ。約1万人の営業担当者がいるとはいえ、少額のサービスを1社ずつ回って提案する方法なら、採算が合わない。ユーザー企業が「リコーワンストップくらうど」を知って魅力を感じ、そのうえで受注の確度が高い状況で営業担当者が足を運ぶ環境を築くことが重要だ。佐藤・理事副事業部長が言う“Pull型”営業がどこまで通用するかにかかっている。(木村剛士)