アプリケーションを配信する際にWAN通信を最適化する「WANアプリケーション配信」。サーバーの統合/集約や企業システムのクラウド化を追い風に、市場は活発に伸びている。現時点では、WANアプリケーション配信の主なターゲットは大手企業だが、中堅・中小企業の市場にも、ベンダーにとっての事業拡大の余地がありそうだ。WANアプリケーション配信の市場を俯瞰する。(文/ゼンフ ミシャ)
figure 1 「市場」を読む
サーバー統合/集約が市場を刺激
WANアプリケーション配信とは、WAN(広域通信網)を介してサーバーアプリケーションを利用する際に、流れるデータを圧縮したり、トラフィックを監視するなど、WAN通信を最適化する製品のこと。WAN最適化ソリューションとも呼ばれる。調査会社のIDC Japanによると、2010年の国内WANアプリケーション配信市場は、前年比で19.6%増を記録し、売上金額ベースで115億2300万円に上った。ユーザー企業のサーバー統合/集約が進むなかで、WANアプリケーション配信市場は活況を呈しているのだ。2010年を境として成長率の幅は縮小傾向に転じるものの、売上金額は伸び続ける見込み。IDC Japanは、2010~15年の市場の平均成長率を7.1%と予測しており、売上金額は2015年までにおよそ160億円に拡大するとみている。市場に刺激を与えていくのは、サーバー統合/集約のほかに、「企業システムのクラウド化」や「遅延に敏感なアプリケーション利用の拡大」(IDC Japan)などが挙げられる。
国内WANアプリケーション配信市場(エンドユーザー売上金額)
figure 2 「プレーヤー」を読む
上位4社が売り上げを拡大中
WANアプリケーション配信は、スイッチやロードバランサ(負荷分散装置)といった他のネットワーク機器と異なり、それほどメジャーな製品ではないので、メーカーは比較的少ない。国内市場で高いシェアをもっているのは、ブルーコートシステムズ、リバーベッドテクノロジー、シスコシステムズ、ジュニパーネットワークスの4社で、すべて外資系。各社は2010年に、前年から売り上げを大きく拡大している。なかでも、2009年末からWAN環境によるクラウドサービスの普及を促しているリバーベッドテクノロジーは、市場で最も高い伸び率でビジネスを成長させた(IDC Japan)。WANアプリケーション配信に強い販社は、伊藤忠テクノソリューションズや兼松エレクトロニクス、日商エレクトロニクスなどの大手SIer/NIerに加え、NECや日本IBMといった総合ITベンダー。メーカーと販社が、今後の市場拡大の予測を受け、製品戦略や販売戦略にあたって動きを加速するなかで、プレーヤー間の競争が激しさを増していくのは必至だ。
WANアプリケーション配信の主なプレーヤー
figure 3 「商機」を読む
ローエンド製品の投入が市場を広げる
調査会社の米ガートナーは、WANアプリケーション配信のメーカーの勢力を表す「マジック・クアドラント」において、リバーベッドテクノロジーとブルーコートシステムズの2社を「リーダー」として位置づけ、シスコシステムズを「チャレンジャー」と「リーダー」の間に位置づけている。また、この3社に並んで日本市場に強いジュニパーネットワークスは「ニッチプレーヤー」の領域に入る。各社は、クアドラントでの位置づけからすれば、「ビジネス遂行の能力」(=事業拡大の可能性)に関してまだポテンシャルがあり、今後、いかに事業を拡大していくかに腐心しているといえそうだ。現在、各社はWANアプリケーション配信の製品を主に大手の企業/DC事業者に向けて展開しているが、これからは中堅・中小企業(SMB)にも着眼して、SMB市場を開拓することがビジネス成長につながると考えている。IDC Japanの草野賢一コミュニケーションズ シニアマーケットアナリストは、「(メーカーはSMBに向けて)価格を抑えながら、広帯域のWAN最適化/高速化を実現するローエンド製品を投入すべき」と見解を述べる。SMB市場を狙うにあたっては、中堅・中小企業に強い販売パートナーをもつ必要があり、メーカー各社は今後パートナー戦略の再編に取り組むものと思われる。
米ガートナーによるWAN最適化の「マジック・クアドラント」
figure 4 「3年先」を読む
DCネットワークインフラの商材として
WANアプリケーション配信のソリューションは、データセンター(DC)でネットワークインフラを構築するための商材として重要性を高めている。国内DCネットワークインフラ市場は、東日本大震災によるDCの需要拡大やDCの分散化といった市場環境の変化もあって、向こう数年間はプラス成長を続け、2010年の約500億円から2015年までにおよそ700億円に拡大(IDC Japan)する見通しだ。
DCネットワークインフラは、主に(1)イーサネットスイッチ、(2)ロードバランサ、(3)WANアプリケーション配信の三つの製品で構成されている。2010年のDCネットワークインフラ市場の約500億円のうち、イーサネットスイッチとロードバランサはそれぞれ約200億円を、WANアプリケーション配信は約100億円を占めている。IDC Japanによると、2013年までに三つの製品はすべて売上金額を伸ばすことができ、2:2:1の構成はほとんど変わらないが、2014年以降はイーサネットスイッチの販売が減るトレンドに転じる。その影響を受けて、伸び続けるWANアプリケーション配信はDCネットワークインフラ製品のなかでのウェートを高めていく。要するに、3年先にはWANアプリケーション配信は、DCに向けた商材としてこれまで以上に有望になってくるわけだ。
国内DCネットワークインフラ市場(エンドユーザー売上金額)