ここ1年の間、ICT(情報通信技術)ベンダーのアジア進出が相次いでいる。その状況を表に示した。今年8月、ベトナムに初のアジア現地法人を設立した日商エレクトロニクス(日商エレ、瓦谷晋一社長)もその一社だ。同社は、主に日系企業をターゲットに据える他社と異なり、テレコム会社をはじめとするベトナムの現地大手企業に的を絞って、ネットワーク(NW)サービスを提供していく。
日商エレのアジア戦略は、最初から現地企業をターゲットにするという点に、大きな特色がある。アジアで事業展開するICTベンダーの多くは、まず現地に拠点を構える日系企業に向けて日本国内と同様のNWサービスを提供し、日系向けのビジネスが実を結んだ時期を踏まえて、次のステップとして現地企業の獲得に挑戦する──というのが一般的なパターンだ。しかし、このパターンでは、せっかくの巨大な現地市場が目の前にあるにもかかわらず、ターゲット数が限られた日系企業に限定することになるので、ビジネスの規模が限定されてしまう。
ベトナムは人口が伸びつつあり、かつモバイル端末の普及が速いスピードで進んでいるとみて、日商エレは、事業展開の重点を日系企業にではなく、ネットワークインフラの強化を迫られているテレコム会社やサービスプロバイダに置くことを決断した。海外事業推進室の水嶋恒三室長は、「ベトナムでは、ネットワークインフラの整備・強化が喫緊の課題となっている。われわれは、ネットワーク機器メーカーを中心とした当社のパートナーがベトナムでの事業に注力したいとの要望もあって、今のタイミングでベトナムに進出して、大手テレコム会社をターゲットに設定した」と狙いを語る。
首都・ハノイにオフィスを構える日商エレの現地法人は、ベトナム出身のジェネラルディレクターをはじめ、現地スタッフの割合が高いコアメンバー6人で構成している。メンバーは、大手テレコム会社向けのコンサルティングからネットワークの設計までを担当し、ネットワーク機器の設置は現地のパートナー企業が行う。水嶋室長は、「すでに数社のテレコム会社から興味をもっていただいており、東京にある当社の技術センターに見学に来たいとの要望を受けている」と、手応えを感じている。日商エレは来年度末をめどに、現地法人の従業員を約20人に増やし、ベトナム事業を着実に拡大する計画だ。「2014年の売上目標は30億円」(水嶋室長)と意気込みを示す。
ベトナム法人の設立は、日商エレのアジア戦略の第一弾だ。今後、市場をインドネシアやフィリピン、台湾などに広げ、ルータを中心としたネットワークインフラの提供に加え、「サービスのプラットフォームやアプリケーションも、現地パートナーと組んで提供したい」(水嶋室長)という。日商エレは、アジアでの事業を強化することによって、将来、70億~100億円の海外売上を目指している。(ゼンフ ミシャ)