中国におけるソフトウェア開発・BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)の拠点拡充や、クラウド/SaaSの基盤となるデータセンター(DC)建設・整備が急テンポで進展を遂げている。日系SIer・ITベンダーは、地場有力SIerとの提携をこれまで以上に積極化。中国地場市場をターゲットとするビジネスの基礎固めをより一層推し進めることで、中国ビジネスの拡大を狙う。(取材・文/安藤章司)
1000ラック超えのDC相次ぐ  |
日立システムズ 高橋直也社長 |
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日立ソリューションズ 林雅博社長 |
NTTデータやITホールディングス、日立グループ、NEC、そして富士通──。日本を代表する有力SIer・ITベンダーが、中国でのデータセンター(DC)整備を積極的に進めている。
DCは、クラウド/SaaSやBPOサービスに欠かせない設備であり、中国でのビジネス拡大の一大拠点の役割を担う存在となっている。本来、クラウド/SaaSは、世界中のDCのリソースを自由に活用できるアーキテクチャではあるものの、さまざまな規制によって中国国外のDCを活用しにくかったり、顧客によってはできる限り身近なDCを活用したいというニーズが強い。後者はDCのおよそ7割が首都圏に集中している日本の事情とも重なるものだ。
日系ITベンダーは、中国国内向けのサービスを提供するためのDC設備の充実を急ピッチで進めている。ITホールディングスグループのTISは、日本の主要SIerのなかで最も早い2010年4月、天津にラック換算で約1200ラックを収容できる大型DCを開設。続く2011年にはNTTデータや日立グループ、NEC、富士通が相次いでDC設備を拡充に乗り出している。
とりわけ、日立グループの積極性には目を瞠るものがあった。日立グループはすでに山東省済南にDC設備を確保済みだが、これに加えて広東省広州で地場有力SIerの広東華智科技と提携してDCを活用したクラウド/SaaSサービスやBPOセンターを11年5月に立ち上げ、さらに遼寧省大連の地場有力SIerの大連創盛科技と12年11月をめどにラック換算でおよそ2000ラック相当の巨大DCを竣工する準備を進めている。
大連創盛科技は、DC用に確保するめどがついている4万m2余りの敷地をフルに使えば、「将来的にラック換算で最大1万ラックを収容可能な規模に拡張できる」(大連創盛科技の謝銀茂総経理)と、一大DC基地構想を描いている。
中国縦断する三軸体制へ 日立グループのDC活用型ビジネスで鍵を握るのは、日立グループの二大SIerの一翼を担う日立システムズだ。同社は日本国内10か所余りのDC運営を担い、DCの運用ノウハウの集積に努めてきた。今回の広州の広東華智科技、大連の大連創盛科技と協業してのDC運営でも、日立システムズが中心となってDC運営支援を行う。
日立システムズの高橋直也社長は、「クラウド/SaaSといったプラットフォームやアプリケーションレイアまで踏み込んだ高付加価値のDCサービスの構築を急ぐ」と、ハウジングのような基礎的なDC運営にとどまらない高度なサービス提供を中国で展開していく考えを示す。
同時にSI事業で日立グループのもう片方の一翼を担う日立ソリューションズは11年10月に中国法人を北京に開設。上海と広州に営業拠点を開設したのに続き、13年までをめどに中国で15か所程度の拠点を順次開設する考えを示す。日立ソリューションズの林雅博社長は、「ITソリューションの展開を重視する」としており、日立システムズとの役割分担を明確にする。日立製作所本体を軸として、日立システムズのDC活用型のサービスと、日立ソリューションズのシステム開発力の両翼体制で中国ビジネスを推進していく。
主要ITベンダーやSIerの直近のDC配置を見渡してみると、日立グループが大連、済南、広州と北から南まで中国を縦断する三軸体制の構築にいち早くめどをつけたのに対し、富士通は南部の広東省にDC拠点を開設。11年から本格的にサービスをスタートした。NECは11年6月に東軟集団(Neusoft)と提携する形で大連にクラウド/SaaS事業の拠点を立ち上げている。NTTデータは上海の近くにある無錫をDCやBPOサービスの拠点と位置づけ、先述のITホールディングスのTISは天津DC活用したビジネス拡大を急ピッチで進める。
DC設備は巨額の先行投資を負担しなければならない。それでも中国へ進出する日系既存顧客からの要請や、中国地場の有力顧客のニーズを取り込むために、主要SIerやITベンダーは今後もDC整備への投資を拡大させるものとみられる。
自動車産業に焦点をあてる システム構築に欠かせないソフトウェア開発においても、地場有力SIerとさまざまな提携が進展している。とりわけ、日系SIerやITベンダーと関係の深い地場有力SIerが、複数の日系ITベンダーと提携するケースが増加。例えば、日立システムズとDCを活用したBPOやクラウド/SaaSビジネスで提携関係にある広東華智科技は、広東地区でJBCCホールディングスやNECなど他の日系ベンダーとの協業も推し進める。
NECとの協業に関しては、中国における自動車業界向けのITソリューション事業分野で提携したと11年12月1日に発表。NECグループがこれまで開発してきた自動車メーカーや部品会社向けの基幹業務や販売、物流システムなどのノウハウを中国市場に適したかたちで提供するにあたり、地場有力SIerである広東華智科技のソフト・SI開発力、販売力と組み合わせることで事業を拡大していく。
広東華智科技の梅傲寒総裁は「日系SIerが、それぞれもつ得意領域を中国で存分に引き出すような協力関係を構築する」と、提携関係にある日系SIer同士が競合しないよう配慮しながらウイン・ウイン(両者勝ち)を目指す。
NECでは、中国の2010年の自動車販売は1800万台を突破し、09年以来、世界最大の自動車市場の地位を継続していると分析。広東省を中心とする中国華南地区は、日系自動車メーカーだけでなく、地場メーカーや欧米系メーカーが相次いで参入を決定しており、関連部品産業のすそ野拡大も期待されている。
野村総合研究所(NRI)が日本、米国、欧州、中国の世界四大市場の自動車市場動向を調べたところによれば、同地域の乗用車の販売台数は中国のモータリゼーションの進展が後押しするかたちで、2020年には2010年比で約49%増の約6200万台に拡大する見込み。なかでも注目されるのは、付加価値の高いハイブリッド車やプラグインハイブリッド車、電気自動車(EV)の「エコカー」の構成比の拡大である。NRIによれば、四大地域におけるエコカー販売台数は2010年で約62万台だったのに対し、2020年には同地域全体の約21.5%を占める1339万台へ拡大する見通しだ。地域別構成比は米国が約32.8%の約440万台、中国が32.6%の約437万台と並び、両国だけで全体の65.4%を占める勢いで、中国のエコカー市場が急ピッチで拡大すると予測している。
販売流通網の構築進む  |
サイオステクノロジー中国法人 岩尾昌則董事長 |
ほかにも、中国有力SIerの東忠集団は、浙江省杭州に敷地面積約5万m2の巨大なテクノロジーパークを建設。NECやNTTデータ、富士ソフトグループ、シーイーシーなど日系SIerが集結し、東忠集団が日系SIerが受注したシステムの開発や運用を支援するスキームを構築している。2011年にはパークの第二期の拡張工事が完了し、5000人を収容できる体制を整えた。東忠集団の丁偉儒董事長は「2012~13年をめどに山東省済南市に2か所目のテクノロジーパーク開設準備を進める」と、テクノロジーパークのさらなる拠点拡大に意欲を示している。また、東軟集団は東芝ソリューションと中国市場をメインターゲットとした合弁事業を11年7月から本格的に立ち上げるとともに、NECとはクラウド/SaaS分野で協業を深めるなど、複数の日系ベンダーと協力関係を強化している。
大手ITソリューションベンダーだけでなく、ISV(独立系ソフト開発ベンダー)の販路開拓も着実に進んでいる。サイオステクノロジー中国法人では、主にサーバー向けのクラスタソフト、データバックアップソフトを販売。日本ではSI事業も手がけるサイオスだが、中国ではサーバー用ソフトのライセンス販売を主軸に据えており、これまで中国でデルやヒューレット・パッカード(HP)など有力サーバーベンダーとの関係を深めてきた。サイオスでは、中国サーバー市場はIBM、HP、デルなど米系企業が依然として高いシェアをもっており、浪潮集団や聯想集団(レノボ)が追う構図にあるとみている。
米系サーバーベンダーは2~3社の「VAD(付加価値ディストリビュータ)」や「ティアワン」と呼ばれる卸を介して全国のSIerに商材を届ける仕組みを構築しているケースが多い。サイオスでは、2011年末までにHPと協業を本格的に立ち上げ、HP系のティアワン層への技術サポートを行う体制を構築することで、「2012年は前年比3倍のライセンス販売増を目指す」(サイオス中国法人の岩尾昌則董事長)と、中国地場に向けた販路のより一段の拡充を推進していく構えだ。