日本IBM(橋本孝之社長)は、パートナーと共同で「Team Global」というコミュニティを組織化し、海外進出を目指す国内中堅・中小企業(SMB)のIT導入支援を開始した。コミュニティには、海外に現地法人を置いて、現地での販売実績をもつシステムインテグレータ(SIer)や独立系ソフトウェアベンダー(ISV)など20社が参加。SMBが海外のITシステムを構築する際に共同でソリューションを提供するほか、各国のIBMと連携して製品・サービスを調達する。内需低迷の今、国内では、製造業を中心に新興国など海外展開を進める動きが活発化している。日本IBMは、世界にある自社の営業・販売網を生かし、こうした顧客に付加価値を提供し、IBMプラットフォームの販売拡大を狙う。(谷畑良胤)
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広域事業部長 伊藤 昇氏 |
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ソリューションリーダー 大山 裕一氏 |
パートナーとの協調モデルである「Team Global」は、日本IBMが日本の大企業に対して世界に標準化・統合化された経営基盤構築を提案する「Go Global」戦略の関連で、国内全国のSMBをターゲットにパートナー戦略を展開する「パートナー&広域事業部」が12月までに立ち上げた日本法人独自の施策だ。
「Team Global」に参加したのは、システム構築ベンダーの兼松エレクトロニクスなど「システム・ネットワークインテグレーション・パートナー」の10社と、ウイングアークテクノロジーズなど自社ソフトを開発・販売する「ソリューションパートナー」の10社の計20社。参加ベンダーはいずれも、北米や西欧、中国・台湾、タイ、ベトナムなど海外に拠点を置き、各国での導入支援を可能としている。支援内容も、ITインフラや生産管理・在庫管理、総務・人事・給与システムの構築、国際会計対応、研修の実施などさまざまで、各ベンダーが得意領域をもち寄って適切なソリューションを提供する。
「Team Global」の施策では、ITインフラやアプリケーションなどの構築・支援はもとより、各国に展開する日系ベンダーや海外進出時に役立つソリューション、コンサルティング・サービス、各国のIBM経由で現地ローカルベンダーを紹介する。海外展開を検討しているユーザー企業は、日本IBMが開設する「IBMコンシェルジュ」サイトで、進出国や希望するITインフラなどの必要事項を記載すれば、日本IBMから「Team Global」のメンバーで条件に合うベンダーが紹介される。参加ベンダーは、IBMの「Lotus Live」で日本IBMから提供される案件などに関する情報交換を行う。
調査会社のノークリサーチによると、企業が海外展開する際に選択するSIerは、進出先の国にサポート拠点があり、その国の法制度や商慣習に精通し、導入実績があることを重視している。また、ノークリサーチの調べでは、SMBの組み立て製造業の半数がすでに海外拠点で事業を展開し、展開予定も15%程度となっているほか、加工製造業や建設業、小売業の2~3割が海外展開している。「Team Global」を組織化したパートナー&広域事業部の伊藤昇・広域事業部長は「SMBでさえ、海外展開しなければ成長できない時代に突入した。これまでも案件ベースで、海外展開を検討する企業に対して、現地IBMや日系ベンダーを紹介していた。これを正式なプログラムに仕立てて推進し、パートナーのビジネス拡大に貢献する」と語る。そしてそのために、「Team Global」に参加するベンダーを順次拡大していくことを計画している。
「Go Global」戦略を担当する同事業部の大山裕一・ソリューションリーダーは「コンサルティングやアウトソーシングを含め、IBMの世界標準の基盤とパートナーの製品・サービスを組み合わせてIBMなりのバリューを顧客に提供する」と述べ、既存顧客に対しては案件拡大、新規顧客にはIBMのすぐれている点を提供することができると期待する。今年度(2012年12月期)は、参加ベンダーと共同マーケティングを本格化するほか、海外導入事例を集めて「IBMコンシェルジュ」などに掲載し、顧客獲得を狙う。

日本IBMの“Team Global”に賛同したパートナー
表層深層
日本IBMの「IBM 中堅企業フォーラム」に参加した企業約500人のアンケート調査によれば、約半数が海外展開を「検討していない」と回答した。一方、約3割は「すでに展開中」で、残り2割が「進出を検討している」と答えた。日本IBMの伊藤昇・広域事業部長は「現段階では、海外展開に対するニーズは低い。しかし、日本経済の状況を考えれば、いずれは海外展開しなければならない状況が出てくる」と、今回の「Team Global」は、中・長期を見据えた先行投資だと指摘する。最近では、国内の外資系ベンダーの日本法人や大手ITベンダーが「グローバル」をテーマに、海外営業・販売体制の確立を急いでいる。国内需要の低迷に加え、デフレや円高など経済要因が重なり、多くの企業が海外進出を検討し始めたからだ。
SAPジャパンの日本法人は、海外事業を展開するパートナー企業を支援する体制を強化。世界各国のSAP拠点と連携して、自社製品の最新情報をパートナーに伝達し、顧客の支援に役立てる。富士通は、「世界5拠点で、日本と同じオペレーションにする」(山本正已社長)と、均質な製品・サービスが提供できる体制を築く。
中堅・大企業向けを中心に海外でのIT構築支援ができないITベンダーは、大型案件を失うおそれが出てきているといえる。日本IBMの場合は、大企業は「Go Global」体制で支援する一方、「SMBにも、大企業と同じニーズがある」(伊藤部長)とみて、全方位で海外展開を支援できる体制を築いた。