SIer二番手グループのなかに再編の気運が高まっている。情報サービス業ではトップのNTTデータが独走し、その後を「年商3000億円クラブ」と呼ばれる二番手グループが追う。だが、日立システムズとSCSKが2011年10月に3000億円クラブ入りを果たしたことで、同グループはSIer系だけで6社、東芝ソリューションや日本ユニシスなどを入れればさらに増える。この“ダンゴ状態”から頭一つ抜け出し、トップのNTTデータをどこまで追い込めるかが今後の再編の焦点となりそうだ。(安藤章司)
最もラジカルなのが「3000億円クラブ」に入ったばかりのSCSKだ。同社の中期経営計画上は、今期(2012年3月期)の旧住商情報システムと旧CSKの通期連結売上高見通しの単純合算値2760億円から15年3月期をめどに3000億円へ増やすという控えめなもの。だが、中井戸信英社長の思い描く成長イメージは「3000億とか、4000億とかいうのは中途半端すぎる。目指すべきは年商を2倍、3倍にする勢いだ」と“脱3000億円クラブ”を明確に示す。

「3000億円クラブ」のポジショニングマップ
この背景には、日立系SIer4社の再編・統合の影響も少なからずある。2010~11年にかけて日立ソリューションズと日立システムズが発足し、ともに3000億円クラブ入りを果たした。かつては旧4社のうち3社が独立性が高い上場会社であったため、ビジネス上で十分な連携がとれていたかどうかは疑問が残る。だが、非上場である現体制は日立製作所を軸としたガバナンスが大幅に強化され、一部には「実質的に両社合わせて6000億円規模のSIerとみていい」(あるSIer幹部)という声も聞かれる。そうなると、3000億円クラブは第二グループではなく、第三グループへ転落することになりかねない。
ITホールディングス(ITHD)の岡本晋社長は「3000億円クラブなどもう古い」と切って捨てた。ITHDは業界再編をリードしてきただけに、今のダンゴ状態の第二グループに甘んじる考えは毛頭ない。「グローバル規模の競争に勝ち残るため、さらなる大団結を呼びかけたい」(岡本社長)と規模拡大に強い意欲を示している。
野村総合研究所(NRI)も脱3000億円クラブと無縁ではない。同社は少ない従業員数で高い利益率を叩き出す「業界標準ビジネスプラットフォーム戦略」を推進。この施策が軌道に乗れば、年率7%で売り上げを伸ばし、営業利益率13%以上を安定的に確保できる道筋が描けるという。NRIはこれまでM&A(企業の合併と買収)や資本提携には保守的だったが、ここへきてインドでの現地有力調査会社との資本業務提携と、味の素のシステム子会社への出資を視野に入れた業務提携の検討を始めている。
では、なぜここへきてSIer各社は規模を求めるのか──。まず、筆頭に挙げられるのが情報サービス業のビジネスモデルのパラダイムシフトである。クラウドに代表されるサービス化の潮流と、アジア成長国を中心としたグローバルビジネスの進展は、これまでの受託ソフト開発の比率が高く、国内中心のドメスティックなビジネスモデルとは一線を画すものだ。情報システムを「所有から利用へ」の転換を促すクラウドは、その基盤であるデータセンター(DC)から業務アプリケーション、保守運用の体制構築に至るまで、原則としてITベンダーの先行投資となる。グローバルビジネスについても地場の有力顧客がつくまでは持ち出し分が重くのしかかる。
SIerの受注体力は売上高の10%程度といわれており、売上規模が増えれば受注できる案件も大きくなる。国内市場の飽和感が強まるなか、ただでさえ大型案件が目減りしている。限られた案件をより有利に受注するには規模の追求は不可欠。クラウドやグローバルの先行投資に耐えられる財務基盤も、規模が大きくなればそれだけ有利になる。再編に乗り遅れて第三グループに転落する事態になれば、ビジネスを有利に展開しにくくなる可能性が高い。情報サービス業のパラダイムシフトと歩調を合わせ、新たなトップ集団を形成していく動きが加速する見込みだ。
表層深層
日立ソリューションズの林雅博社長は、「合併前の旧日立ソフトウェアエンジニアリングの規模のままだったら、この先10年は事業を継続できたかもしれないが、その先はなかった」と断言する。日立システムズがDCをはじめとする基盤系を担い、日立ソリューションズが最前線のSIを受け持つことで相乗効果を発揮。とりわけ大規模な海外進出は、両社合わせて6000億円の事業規模だからこそ可能になったといえる。
ただ、多くの人手を必要とする受託ソフト開発が減るなかでの経営統合には、雇用を維持できなくなるおそれがつきまとう。SCSKは、従業員数約3500人だった旧住商情報システムと1万1600人余の人員を抱える旧CSKと経営統合。パラダイムシフトを前にして新規採用を抑制せざるを得ない状況にある。ITホールディングス(ITHD)もグループ会社のTISで2011年9月、特別転身支援プログラムを514人に適用した。「TISの社歴のなかでかつて一度もなかったこと。再就職支援に取り組む」(ITHDの前西規夫副社長)と話す。高収益SIerとして名高い野村総合研究所(NRI)でさえ、「受託ソフト開発の減少をサービス事業の伸びでカバーできない事態を考えると、少し怖い思いがする」(NRIの嶋本正社長)と吐露する。
「3000億円クラブ」から頭一つ抜け出すのは、トップベンダーとして勝ち残るために必須条件であると同時に、痛みを伴う構造改革であることも忘れてはならない。