スマートフォンと並んで、昨年から引き続いて販売が伸びているタブレット端末。アップルが火をつけたタブレット端末市場は、その後、主要なパソコンメーカーが揃って新商品を出したことで活気づいた。マイクロソフトもタブレット端末に適した次世代OSを開発中で、ここ数年はIT産業での主役を演じる可能性が高い。現在の状況と今後、そしてビジネスでの利用環境はどうか。急成長するマーケットの今を俯瞰する。(文/木村剛士)
figure 1 「市場規模」を読む
2012年は国内で256万台、15年にはその2倍に
タブレット端末が脚光を浴び始めたのは、アップルが「iPad」を発売した2010年。「iPad」は爆発的にヒットし、この年の国内タブレット端末の出荷台数は81万台に達した。このうち、「iPad」が占める比率は92.6%で、独占状態を形成した。他のコンピュータメーカーの追随が始まったのは2011年。主要パソコンメーカーは、グーグルのAndroidとマイクロソフトのWindowsを搭載したタブレット端末を商品化した。選択肢が増えたことで、さらにコンシューマと法人の注目を浴び、11年の出荷台数は、前年の2倍強の188万台に達した模様だ。これらの調査を行ったIT調査会社のICT総研は、中期的にみても高い成長ぶりを示すと予測している。12年の出荷台数は、前年に比べて約36.2%増の256万台で、3年後の15年には、その2倍にあたる557万台に達するとしている。15年の時点でも「iPad」が占める割合は全体の50%以上で、アップルが市場をけん引する構図に変わりはないとみている。
タブレット端末の国内出荷台数推移
figure 2 「用途」を読む
ビジネス利用は発展途上?
ユーザーは、多様化するモバイルデバイスをどのように使い分けているのか。右図は、主要なアプリケーションソフトとネットサービスの利用頻度を、「モバイルパソコン」「スマートフォン」「タブレット端末」の区分で調べた結果だ。調査は私用/ビジネス用を問わず、約4000人を対象にアンケートを行っている。タブレット端末では、「メール」「ニュースなどの情報閲覧」「タブレット端末の操作と表示画面に最適化した専用アプリ」の利用頻度が高い。だが、モバイルパソコンやスマートフォンに比べて、各項目ともタブレット端末の利用頻度は低い。また、タブレット端末で「ビジネス系ソフトを利用している」と回答したのは、わずか4%。仕事で使う端末としては、まだまだ定着しているとは言い難い。スマートフォンでもビジネス系ソフトの利用頻度は低く、たった2%だ。調査を行ったICT総研は、「タブレット端末の画面に適した専用アプリの充実が不可欠」と、法人での導入に必要な要素を解説している。
各端末の利用状況
figure 3 「ビジネス利用の効果」を読む
企業への普及率は上がるが効果は不透明
限定的な利用にとどまっているものの、ビジネスでの利用は着実に進んでいる。導入状況をみると、タブレット端末を導入している企業は、2010年は6.6%だったのに対して、11年は2.9ポイント上昇して9.5%になった。10社に1社はタブレット端末を導入している勘定になる。また、「トライアル(試験的)導入している」と答えた企業は8.0%で、この数字を合わせると2011年は17.5%に達した。企業にたずねた導入効果上位10項目が右図だ。最も多い項目は、「情報の共有、それによる職場の活性化」で41.8%、以下、「業務プロセスの改善、効率化」「意思決定の迅速化」と続いた。この3項目のほか、各項目をみてみると、タブレット端末というよりも、モバイル端末を活用することによる情報の収集と発信を迅速に行うことができたことによって効果を得ている。つまり、「タブレット端末だから得た効果」ではない印象を受ける。
普及率は高まりつつあるものの、利用範囲が限定的、得た効果が抽象的だとすれば、SIerが活躍するチャンスは多いだろう。画面サイズが大きいなど、スマートフォンにはない有利な面と、パソコンには実現できない操作性をもつタブレット端末を有効活用できるITソリューションを生み出せば、企業の関心は高まり、提案も受け入れられるはずだ。
企業が得たタブレット端末の導入効果
figure 4 「導入事例」を読む
事例は多様化、業種・企業も千差万別
企業のタブレット端末の導入事例からは、さまざまな用途を拾い出すことができる。著名な企業の最近の導入事例を右に示した。説明が必要な商品を販売する小売店舗では、これまで紙の資料やパソコンで行っていた顧客への説明を、タブレット端末に置き換える動きが「iPad」の発売当時から盛んだったが、そうした状況は今も継続している。また、パソコンに比べて操作が簡単な点に着眼した自治体が、高齢者などのITに慣れ親しんでいない住民向けのサービスとしてタブレット端末を活用する動きも出てきた。加えて、一般的なオフィスワーカーが、業務の効率化やペーパーレス化を図るためにタブレット端末を導入するケースも多い。業種・企業規模を問わず、用途は多様化してきた。一方で、公表されている事例の数をみると「iPad」が多い。出荷台数に比例しているともいえるが、「iPad」のマーケティングを積極的に推進しているソフトバンクモバイルの存在も大きい。ソフトバンクモバイルは、販売に結びつけるために「積極的に事例を収集し、公開している」(中山五輪男・シニアエヴァンジェリスト)という。専用サイトを設け、従業員数別・目的別・業種別で事例を検索・閲覧できるようにしており、同社の力がタブレット端末の普及に大きな影響を及ぼしているといえる。
タブレット端末の最近の主な導入事例