ユーザー企業の間で災害対策を施そうという意識が高まっている。2011年3月11日に発生した東日本大震災をきっかけとして、社内データの損失防止、情報システムのアウトソーシングなどを活用する企業が増えているのだ。震災後、関東地方を中心に計画停電が実施されたことで、節電を意識した対策も進んでいる。震災後に規模が拡大したIT分野の災害対策製品・サービスの実状を探る。(文/佐相彰彦)
figure 1 「DCの状況」を読む
都市型・地方型ともに拡大
企業の情報システムのサーバーをデータセンター(DC)で監視・運用するサービス「DCアウトソーシング」が伸びている。調査会社のIDC Japanによれば、サーバー設置場所を貸し出す「コロケーション」は、関東地方のDCで2011年から15年まで、年平均4.6%で成長すると見込まれている。企業が利用するDCを地域別にみると、昨年は関東地方のシェアが72.3%で、さらに東京都23区内のDCだけを取り出すと、34.5%のシェアに達している。大規模なDCが東京都23区内に多く存在しているほか、本社が関東地区にあるインターネットサイト運営会社やネット通販会社などが、自社に近いDCを利用していることが東京集中の要因だ。
大規模なDCの新設が首都圏内で続いている状況だが、一方で、北海道、中国地方、九州地方などでも本格的なDCの構築が始まっており、IDC Japanは地方型DCの利用も拡大すると予測している。
国内コロケーション市場の売上実績・予測(DCの所在地別)
figure 2 「ストレージソフト」を読む
データ保護に対する意識の高まりが追い風に
IDC Japanによれば、国内ストレージソフトウェア市場は、昨年上半期が前年同期比4.0%増の338億8300万円だった。通年では、前年比3.8%増の686億3200万円の見込みという。2010年から15年までの年間平均成長率は4.0%で、15年の市場規模は802億8000万円に達すると予測している。
情報システムの災害対策に関して、これまで対策内容と実際にかかるコストのギャップが大きい場合、ユーザー企業は導入を検討するだけで終わることが多かった。ところが、東日本大震災以降、予算内で実施できる対策を取ろうとする動きが出てきた。データ保護に対する意識が高まり、実際にベンダーへの問い合わせが増えており、なかには、急いで遠隔レプリケーションを構築したケースもあったようだ。また、中長期でみると、「ビッグデータ」というキーワードが、ストレージソフト市場拡大の促進要因になる可能性もある。
国内ストレージソフトウェア市場の売上実績・予測
figure 3 「クラウド利用」を読む
徐々に中堅企業以下に広がる
調査会社の矢野経済研究所が、国内の企業・団体・公的機関等452団体に対してプライベートクラウドへの関心と利用率をアンケート調査したところ、「利用中」が3.8%という結果が出た。「検討中」は7.4%、「関心あり(情報収集段階)」は28.4%で、これらを合計すると39.6%が「クラウドの利用に関心がある」ということになる。ベンダーのクラウド基盤を活用するIaaSやPaaSについては、「利用中」は2.5%にとどまったが、「検討中」が4.5%、「関心あり(情報収集段階)」が33.4%、合わせて40.4%がクラウドに興味を示していることがわかった。
売上規模別でみると、1000億円以上の企業では、プライベートクラウドの利用率が14.8%、ベンダーのクラウド基盤を使うIaaSやPaaSの利用率が11.1%。「検討中」まで含めれば、プライベートクラウドで40.7%、IaaSやPaaSが25.9%となっており、企業のクラウドに対する期待を感じさせる結果が出た。
また、矢野経済研究所では、経験則でいえばITシステムの普及は大企業から中堅企業、中小企業に広がる過程を踏むので、クラウド基盤の利用についても大企業への普及を契機に中堅企業以下に広がると予測している。災害対策の観点からも、クラウド利用は進むだろう。
クラウドコンピューティングへの関心と利用率
figure 4 「蓄電システム」を読む
防災やピークシフトで高まるニーズ
東日本大震災を受けて、防災用途やピークシフトの用途で蓄電システムのニーズが高まっている。調査会社のシード・プランニングによれば、昨年、東日本大震災を受けて定置用蓄電池市場が急激に成長し、売上規模は156億円、蓄電容量は2万3482kWhの見込み。家電量販店などを通じて、ポータブルタイプの蓄電システムが既築住宅をはじめとしてオフィスや店舗などで導入が進んだほか、大手住宅メーカー各社が「スマートハウス」の名の下に相次いで蓄電池を備えた住宅の建築を進めている。
経済産業省の「再生可能エネルギー固定価格買取制度」の開始に伴って、メガソーラーの建設が進むことに加え、普及に向けて蓄電池の価格が低下して既築住宅での需要が伸びることが期待できる。また、定置用蓄電池の大型化によって、ビルや大規模施設、社会インフラなどでの導入もますます進むとみられる。
経済産業省などが蓄電システムに対して補助金が支給する制度も動いており、今後、定置用蓄電池市場は大きく成長すると見込まれる。このような状況は、ベンダーにとって大きなビジネスチャンスにつながりそうだ。
2011年の定置用蓄電池の用途別出荷比率(見込み)