販売系SIerの海外進出に差が生まれはじめている。NECや富士通、IBMなどのコンピュータ製品を主要商材と位置づけて販売する販売系SIerのうち、IBM系のJBCCホールディングス(JBグループ)は、中国で1億円を超える大型案件を相次いで受注する規模へと拡大した。JBグループは中国での事業を拡大するとともに、タイにも営業拠点を広げるなど、着実に地歩を固めている。JBグループが中国で本格的に事業を立ち上げてから今年3月15日で丸3年。販売系SIerのグローバル対応は他の大手SIerに比べて遅れる傾向があったが、ここにきて状況に変化が現れ始めた。(安藤章司)
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JBCCホールディングス 石黒和義会長 |
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JBCN上海 張江惠副総経理 |
コンピュータメーカーとの結びつきが強い代表的な販売系SIerは、NEC系のNECネクサソリューションズや富士通系の富士通マーケティング(FJM)、日本IBM系のJBグループなどが挙げられる。それぞれメーカーとの資本関係の差異はあるが、オフコン全盛の時代から系列のコンピュータを専門的に取り扱ってきた歴史的経緯があることが共通している。
しかし、情報サービス業界全体を見渡すと、グローバル対応ではNTTデータや野村総合研究所(NRI)といった開発系のSIerが先行する傾向が強く、販売系SIerは独自のグローバル進出という面では後手に回っていた感は否めない。NECネクサソリューションズは、例えばアジア最大市場の中国に自前の現地法人を置かず、「NECの中国法人と連携する」(森川年一社長)というかたちにとどまる。FJMは上海市に現地法人を置くものの、主に日系企業の中国市場への進出支援や現地でのITサポートを手がけている段階だ。
ここで頭一つ抜きん出たのがJBグループだ。2009年3月に中国・大連で本格的に海外事業を立ち上げた後、上海、杭州、北京と営業拠点を拡大。10年9月にはタイ・バンコクにASEAN地域を担う現地法人を開業している。さらには中国やタイでの有力地場SIerとの協業関係の構築にも意欲的に取り組む。この背景には、FJM同様に国内の既存顧客がアジア成長国でのITサポートを求める要望が日増しに高まっていることがある。JBグループはさらに一歩踏み込み、中国やASEAN現地の有力企業のIT投資を取り込む動きにも本腰を入れている。
もう一つ注目すべきは、販売系SIerとしての最大の強みであるコンピュータメーカーとの関係を最大限生かしていることだ。JBグループは日本IBMのトップソリューションプロバイダではあるが、IBMグループ全体からみれば日本でのドメスティックパートナーでしかなかった。しかし、海外進出を本格化して丸3年を迎える今は、「IBMグループの中国・ASEANにおける“グローバルパートナー”としての認知が急速に深まっている」(JBCCホールディングスの石黒和義会長)と、ドメスティックからグローバルパートナーへとクラスチェンジを果たした。
グローバルパートナーとしての具体的な活動の代表例が、有力顧客ごとにビジネスプランを練る「アカウントプランニングセッション(APS)」という戦略セッションを、JBグループとIBM中国、日本IBMの3社で定期的に開催するという活動だ。製造業や消費財メーカー、金融など業種ごとの有力アカウントごとに30日、60日、90日と進捗度合いをチェックする。こうした成果もあり、「中国では、日本円換算で1億円を超える大型案件を相次いで決めた」(石黒会長)と、APSによる連携ビジネスが成果を上げはじめている。
JBグループは、中国市場の深耕を視野に入れ、優秀な中国人幹部の登用を積極的に推進する。今年から上海法人のJBCN上海副総経理として参画した張江惠氏は、電機分野の製造業でおよそ20年のキャリアをもつベテランだ。「顧客とともに成長する姿勢を貫く」と、張副総経理は中国市場での販売活動の抱負を語る。IBMや地場パートナーとうまく連携しながら、JBグループは独自の生存空間の拡大を狙う。石黒会長は「早い段階で海外売上高比率10%達成を目指す」と成長に向けたドライブをかける。

JBグループの海外拠点とビジネスパートナー
表層深層
販売系SIerのなかでいち早くアジア成長市場のビジネスの枠組みを構築したJBCCホールディングス(JBグループ)だが、実は他の販売系SIer同様、当初から積極的だったわけではない。大きく方向転換したのは3年前。きっかけの一つとなったのがJBグループが大切にしてきた顧客のアジア成長市場への進出拡大である。とりわけ製造業や流通・サービス業の顧客の動きは迅速だった。
だが、地球上にあまねく進出するIBMとはいえ、仔細に探ると国境の壁は見えないところに隠れている。例えば、仮に米国の大手IBMユーザー企業が日本に進出したとする。日本IBMは当然対応するものの、「米IBMにとって大手優良顧客でも、日本IBMからすれば“外資企業の出店の一つ”と捉えてしまう」(関係企業の幹部)きらいがある。これはそのまま中国へ進出する日系ユーザー企業にも当てはまり、IBM中国はやはり地場超大手ユーザーに目を奪われる傾向があるようだ。
そこで俄然、注目を浴びたのが日本IBMトップソリューションプロバイダのJBグループの存在だ。日本IBMとIBM中国の間に入り、顧客支援を徹底的に行う。ASEANでも同様である。IBM中国からみれば、少なくとも日系中堅・準大手ユーザーはJBグループに任せることができる。一方、JBグループはIBMとの連携を密にしながらも、中国やASEANの地場有力SIerともパートナーシップを結び、自ら独自ビジネスを展開するチャンスを掴むことが可能になったわけだ。