東日本大震災と計画停電の影響で、在宅勤務体制を敷くためのIT製品・サービスが注目を集めている。首都圏の計画停電は長期にわたって実施される見込みで、今夏は多くの企業が本社を置く東京都23区でも実施される可能性がある。会社に行かなくても、オフィスと同等の環境を自宅でいかに整えるかが、ユーザー企業にとっては喫緊の課題になった。在宅勤務に必要な主なITソリューションの市場展望を俯瞰する。(文/木村剛士)
figure 1 「ウェブ会議」を読む
安定成長が続き、18年には4倍の規模へ
社員がオフィスに来られない状況で、問題になるのが会議。参加者が同時に資料と意見を共有する会議は、一か所に集まって進めたほうが効率的だ。しかし、在宅勤務であっても通常の会議と同等の環境を整えられるツールがある。それが、テレビ・ウェブ会議だ。調査会社のシード・プランニングによれば、国内市場規模は、5年前の2006年は232億円だったが、昨年はその2倍弱の約400億円に成長したとみられる。中期的にも成長が見込まれ、2012年には550億円、18年には2024億円に達するとみている。テレビ・ウェブ会議システムには、さまざまな形式がある。専用端末を活用するテレビ会議、パソコンとソフト、汎用的なサーバーを組み合わせるウェブ会議システムなどがあり、ウェブ会議もシステム構築が必要なオンプレミス型タイプと、SaaS(ASP)型サービスモデルに分かれる。すべてのタイプが右肩上がりの成長を遂げるとされているが、なかでも最も伸びるのはSaaS型。万一の時にすぐに始められ、またすぐにやめられるSaaSが伸びそうだ。
国内テレビ・ウェブ会議関連製品・サービスの市場規模(予測)
figure 2 「ストレージサービス」を読む
SMBの事業継続対策として注目
業務を通じて作成したデータを、社内にあるシステムではなく、クラウドに格納する動きも活発になる可能性が高い。社内LANを通じてしかデータを保存したりアクセスしたりすることができない場合に比べて、利便性が高いからだ。そこで注目されるのが「Storage as a Service」だ。これは、ネットワークを通じてデータを保存できる、いわばオンライン上のデータ格納庫である。場所や端末の種類を問わず、データを保存・活用することができる。調査会社のIDC Japanでは、「Storage as a Service」の市場規模は、2010年には前年比7.8%増の225億800万円の見込みだが、14年には314億円に拡大するとみている。市場規模は小さいものの、09年から14年までのCAGR(年平均成長率)は6.9%で、長期的に高い成長が見込める。IDC Japanの鈴木康介・ストレージシステムズリサーチマネージャーは、「中堅・中小企業(SMB)の事業継続対策、データ保護対策などが成長をけん引する」と、SMB市場を有望視している。
国内「Storage as a Service」の市場規模(予測)
figure 3 「クライアント仮想化」を読む
デスクトップ仮想化ソフト、驚異的な伸びか
在宅勤務を実現するうえで、最もユーザー企業のニーズが強まりそうなのが、クライアント仮想化だ。クライアント仮想化ソリューションの市場規模は、2010年は1921億円で14年には5388億円に成長する見込み。09年から14年までの年間平均成長率(CAGR)は32.9%と、高い成長予測データがある。なかでも、デスクトップ仮想化ソフトの伸びは極めて高く、09年から14年までのCAGRは70.9%と驚異的だ。デスクトップ仮想化とは、データセンターなどに各個人のクライアントデバイスにあるデータやアプリケーション(デスクトップ環境)を移し、ネットワークを通じてパソコンやシンクライアントなどのクライアント端末から、そのデスクトップ環境を利用する手法。クライアント端末を選ばずに、どの端末でもデスクトップ環境を使うことができる。デスクトップ仮想化ソフトが伸びることで、鳴かず飛ばずだったシンクライアント端末も再び脚光を浴びる可能性が高い。IDC Japanでは、2010年1~6月では、シンクライアント専用端末の出荷台数は約8万5000台だが、14年には40万台に伸びると予測している。デスクトップの仮想化やシンクライアントは、生産性向上、PC管理のコスト削減を狙ってユーザーが求めるのが普通だったが、「在宅勤務の実現」という観点でも注目を集め、成長率は今後もっと高まりそうだ。
国内クライアント仮想化ソフトの出荷ライセンス(予測)
figure 4 「モバイルデバイス」を読む
ノートPCは減少し、スマホやスレートが台頭
どこでも業務ができる環境構築を考えた場合、モバイルコンピュータの販売にも弾みがつくはずだ。従業員は、自宅にも個人のパソコンを当然保有しているだろうが、機密情報の漏えいを防ぐためには、個人のパソコンで業務のデータを生成・利用する環境は考えにくい。そうなれば、セキュリティを確保した端末を従業員に貸与するのが最も適している。モバイルコンピュータにはいくつか種類があるが、なかでもスマートフォンの伸び率は非常に高い。2010年の出荷台数は1840万台で、14年にはその2倍以上となる3889万台に達する見込みだ。コンシューマ市場から火がついたスマートフォンだが、企業が大量導入するケースもみられる。また、「iPad」に代表されるスレートPC(メディアタブレット)と呼ばれるモバイルコンピュータも伸び盛りで、11年は前年比約3倍の台数が出荷される見込みだ。その一方で、勢いが落ちるのが、ノートPC。10年の出荷台数は803万台で、11年は4万台減り799万台となる見込みだ。パソコンが主流である時代はまだしばらく続くのは間違いないが、デスクトップの仮想化が進めば、それを操る主流のモバイルクライアント端末も変化してくる。在宅勤務、モバイルワークで、クライアント端末は多様化していくはずだ。
国内主要デバイスの市場規模(予測)